極右・ポピュリスト勢力の台頭が欧州共通のトレンドに
英仏両国の総選挙に共通するのは現政権への強い不満です。ロシアのウクライナ侵攻に伴う物価高で生活が苦しさを増し、移民の流入で安全な暮らしが脅かされるとの不安が増している側面もあります。こうした現状に、政治は十分な対応ができていないという批判が有権者の間には根強く、そこに極右・ポピュリスト勢力が入り込む図式です。
英国のリフォームUKやフランスの国民連合は、EU離脱や移民の制限など自国第一の政策を訴え、支持を広げてきました。他方、英仏両国にはこうした勢力に対する警戒感も少なくありません。そのため、「現政権への不満は多いが、極右に政権を託すわけにもいかない」という選択が行われ、結果として左派が勝利したと言えるでしょう。
しかし、極右・ポピュリスト勢力の伸長は近年、英仏だけでなく欧州全体のトレンドとなってきました。
フランス総選挙の引き金となった6月の欧州議会(定数720)の選挙結果はその状況を如実に示すものです。
中道右派の欧州人民党(EPP)は最大勢力を維持したものの、極右勢力の台頭が顕著となりました。それまで、中道左派の社会・民主主義進歩連盟(S&D)、そして親EUの中道派・欧州刷新グループ(Renew)という中道3派が欧州議会の多数を占めていました。ところが。選挙後、極右・ポピュリストによる「欧州の愛国者」が新たな会派として結成され、Renewを抜いて第3勢力となったのです。
欧州議会は加盟国ごとに議席数が決まっており、それぞれの国で議員が選挙されますが、フランスでは国民連合が圧倒的強さを見せ、「欧州の愛国者」に加わっています。
一方、ドイツでは近年、極右勢力「ドイツのための選択肢(AfD)」が勢力を伸ばしています。2024年7月にはAfDが中心となり欧州議会で新たな会派「主権国家の欧州(ESN)」を発足させました。ここにきて極右会派が急速に増えています。
最近では2022年のイタリア総選挙で反移民、反EUを掲げた連立政権が発足、2023年にはオランダでやはり極右勢力「自由党」による政権が誕生しました。
こうした流れを考えると、極右勢力の勢いが急速にしぼむことは考えにくい状況です。EUは将来のウクライナ加盟に向けた交渉を開始したところですが、各国の国民の間では戦争を続けるウクライナへの支援に懐疑論があったり、EUが推進する環境政策への不安が募ったりしている現状があります。
欧州各国が掲げてきた国際協調体制は、今後どのような形になっていくのでしょうか。欧州の右派・ポピュリスト勢力から目を離せません。
西村 卓也(にしむら・たくや)
フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。
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