フランスは極右政党躍進で政治的賭け

 フランスはどうだったでしょうか。

 国民から直接選ばれる大統領が元首を務めるフランスの制度は、英国と大きく異なります。首相は大統領が指名しますが、指名された首相は議会下院の信任を得なければなりません。他方、大統領は議会の信任を必要としないだけでなく、下院を意のままに解散できる強い権限を持っています。その権限は、総選挙後1年以内に行使できない点を除いてほぼ制約がありません。

 マクロン大統領は2024年6月、欧州連合(EU)の欧州議会選挙で極右政党「国民連合」が躍進したことを受け、下院を解散する意向を表明しました。極右勢力の拡大に歯止めをかけるため、政治的賭けに出たとの見方が有力です。

図:現地の報道などからフロントラインプレス作成
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 フランス下院の選挙は小選挙区2回投票制という仕組みです。各小選挙区の第1回投票で有効投票の過半数を得た候補は当選、だれも過半数に届かなければ決戦投票を行います。1回目の上位2人と、そのほかに登録有権者の12.5%の得票者がいればその人を加えた候補で争われます。

 6月30日の第1回投票で躍進したのは国民連合でした。独断的手法が目立つマクロン政権への批判票が流れたのです。国民連合は「反EU」「反移民」といった急進的政策を封印する「脱悪魔化」の戦術で人気を集め、得票を伸ばしました。第1回投票での国民連合の得票率がトップだったことで、極右政権の誕生が現実味を帯びました。

 その結果に危機感を募らせたのは左派連合と中道の与党連合です。7月7日の第2回投票に向けて「2、3位連合」を組み、各選挙区で候補を一本化して国民連合に対抗することにしました。その結果、最終的に第1党となったのは左派連合、2位が与党連合、極右の国民連合は3位に沈んだのです。

 しかし、どの党も単独過半数には届かず、マクロン大統領はどのような形で与党を形成するか、政治的に大きな課題を背負う結果となりました。秋までに時間をかけて各党と折衝して連立体制を組み立てる考えですが、フランス政治は当面不安定な状況が続くでしょう。