
(ライター、構成作家:川岸 徹)
国宝の短刀2点をはじめ、刀剣、蒔絵の拵、甲冑、武者絵、茶道具、能人形など、三井家ゆかりの品々を紹介する展覧会「国宝の名刀と甲冑・武者絵 特集展示三井家の五月人形」が、三井記念美術館で開催中だ。
三井家の先祖は武将だった
江戸時代は「日本一の商人」として知られ、近代以降は「日本最大の財閥」として名を馳せた三井家。そのため三井といえば「商人・商家」のイメージが強いが、三井家の元祖・三井高利の祖父・三井高安は戦国時代に近江の佐々木六角氏に仕え、越後守(えちごのかみ)を名乗った武将だった。
だが、佐々木六角氏は織田信長に観音寺城の戦いで敗れ、甲賀郡に逃走。三井高安も戦火を逃れ、伊勢国に移り住んだ。江戸時代の慶長年間に高安の子・高俊が武士を廃業し、質屋兼酒屋「越後屋」を開いたのが、商家としての三井家の始まりと伝えられている。
こうして商人の道を歩み始めた三井家だが、先祖が武士であるという意識はその後も長く受け継がれた。三井高安が所持したと伝わる甲冑2点は、三井家の先祖を祀る顕名霊社の神宝に。三井家には刀剣をはじめとする武器武具や武者絵も数多く伝わり、現在は三井記念美術館に所蔵されている。
国宝指定の短刀2点を公開
これらの品々をまとめて鑑賞できる「国宝の名刀と甲冑・武者絵 特集展示三井家の五月人形」。6月15日まで三井記念美術館で開催中だ。
展覧会の見どころは好みで異なるだろうが、刀剣ファンなら国宝に指定された2点の短刀が見逃せない。国宝《短刀 無銘正宗 名物日向正宗》と国宝《短刀 無銘貞宗 名物徳善院貞宗》が公開されている。

国宝「日向正宗」は鎌倉時代末期から安土桃山時代にかけて活躍した刀工・正宗の手によるもの。元々は豊臣秀吉に仕えて近江堅田で2万石を領していた堅田広澄の所有といわれ、石田三成に下賜された後、三成は妹婿の福原直高(福原長堯の名でも知られる)に贈った。その後、関ヶ原の戦いで直高が属した西軍が敗戦。刀は水野日向守勝成の手に渡ったことから「日向正宗」の名で呼ばれるようになった。
「日向正宗」は江戸時代から名刀の誉れ高く、現在では正宗短刀の筆頭に挙げられている。日本刀を男性キャラクター化し、ゲームやアニメで人気を集める『刀剣乱舞』にも「日向正宗」が登場。本展の会場には『刀剣乱舞』で擬人化されたキャラクター「日向正宗」のパネルも設置。ちなみに本展の音声ガイドは日向正宗の声を担当する声優・梶裕貴が務めている。