秀吉が所持した「徳善院貞宗」

もうひとつの国宝「徳善院貞宗」は、正宗の実子とも養子とも伝えられる刀工・貞宗が手がけたもの。豊臣秀吉が所持し、五奉行の一人である前田徳善院玄以が拝領したことから、「徳善院貞宗」の名で親しまれるようになった。その後、徳川家康、紀州徳川家、西条松平家へと伝わり、近代になってから三井家にもたらされたと考えられている。
「徳善院貞宗」は身幅が広く、“ごつい”つくりが特徴。短刀として国宝に指定されているが、脇差といいたくなる風格がある。正宗と貞宗の代表作を合わせて鑑賞できるこの機会に、作風の違いを感じ取ってみたい。
国宝2点のほか、重要文化財7点を含む館蔵の名刀9点を展示。後鳥羽院の御番鍛冶を務めたといわれる則宗の代表作のひとつ、重要文化財《太刀 銘則宗》を筆頭に、惚れ惚れしてしまう名刀がずらりと並ぶ。
コミカルな合戦絵巻が楽しい

刀に負けず劣らず、武者絵も見ごたえがある。特に2点の絵巻物、《酒呑童子絵巻》と《十二類合戦絵巻》が面白い。どちらの絵巻も漫画チックな趣があり、コミックを読むような感覚で楽しく鑑賞できる。
《酒呑童子絵巻》は平安時代が舞台。源頼光ら6人の武者が、都から貴族の娘をさらう鬼「酒呑童子」を討つ物語。円山応挙の弟子・亀岡規礼の筆によるもので、酒呑童子の首がはねられ、その首が宙を舞うシーンが印象的だ。生々しく迫力ある描写だが、どこかコミカルで笑いを誘う。

《十二類合戦絵巻》は、十二支の動物たちと狸の合戦物語。簡単にあらすじを紹介したい。
十五夜の夜に、十二支の動物たちが集まり、和歌の歌合(コンテスト)を開催。鹿が判者(審判)を務め、歌合が終わった後の宴会で鹿はたいそうなもてなしを受けた。この様子を見ていた狸はもてなしを羨ましく思い、「次の歌合では、自分が判者をやりたい」と申し出る。だが、狸は十二支の動物たちに「お前には無理」と馬鹿にされ、追い払われてしまう。
このことを怨んだ狸は、狐、烏、ふくろう、猫などを集めて、十二支の動物に復讐の戦を挑む。鳶の勧めで夜襲を仕掛けた狸軍は、一度は勝利を収めるものの、結局は十二支軍に敗れてしまう。それでも諦めきれない狸は鬼に化けて十二支を驚かそうとするが、犬に見破られて逃亡。狸は世の無常を悟り、妻子と別れて出家。頭を剃り、お坊さんになる道を選んだ。
ストーリーも可笑しいが、甲冑をつけて戦う擬人化された動物たちの仕草や表情がユニーク。勇壮な十二支軍に比べ、狸軍の動物たちはずる賢そうに描かれている。狸が少しばかり、気の毒に思えてくる。
展覧会ではほかに、五月の節句にちなんだ茶道具や、五月飾りに用いられた武者人形、能人形が紹介されている。さらに特集展示として「三井家伝来の五月人形」もまとめて公開。季節感も味わいながら、「さすが三井」と言いたくなる名品をじっくりと堪能したい。
「国宝の名刀と甲冑・武者絵 特集展示三井家の五月人形」
会期:開催中~2025年6月15日(日)
会場:三井記念美術館
開館時間:10:00~17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし4月28日、5月5日は開館)
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)