会計監査の合間を縫って合宿に参加したスラッガー

 KPMGは、世界143の国や地域で監査や財務、アドバイザリーサービスを提供するプロフェッショナルファーム。その事業規模から、「世界4大会計事務所(Big4)」の一つに数えられている。

 スモラの仕事は常に多忙だった。担当するクライアントの中には日系企業もある。2023年2月末、チェコ代表はWBCに向けた準備のため、スペインのバレンシアで代表合宿を行った。ちょうど年明けの監査繁忙期。スモラはなんとか時間をやりくりして合宿に参加していた。

 チェコは北緯が高く、北海道の稚内よりも500キロほど北の緯度に位置している。冬が長く真冬には氷点下を記録するため、屋外でボールを扱うような練習はとてもできない。

 そのためバレンシアでの合宿は、チェコの選手たちにとって、その年初めての屋外での実戦の機会となった。2週間後に開幕するWBC本戦に間に合わせるため、急ピッチでの調整を強いられていた。

 それでも合宿が終了した翌日には、スモラはチェコにトンボ返りし、月末の棚卸立会(会計監査人が期末時点の棚卸資産の数量を検証する監査手続き)のため、朝5時にクライアントの外部倉庫に向かったという。

 チェコ代表の野球選手とはいえ、KPMGの組織の中ではまだ若手スタッフにすぎず、監査の経験を積む必要があったのだ。

 2023年3月、日本で開催されたWBC本戦・第1次ラウンド。スモラにはある企みがあった。

 初戦で中国に勝って幸先良く1勝を挙げたチェコは、続く3月11日の2戦目、東京ドームで日本代表と対戦した。

 チェコは日本の先発・佐々木朗希(千葉ロッテ)の立ち上がりを攻め、初回に1点を先制する。一方、チェコの先発オンジェイ・サトリアは、初回に大谷を内野ゴロに打ち取るなど好投を見せ、日本のファンを驚かせた。

 このサトリアも、ユニフォームを脱げば、チェコ電力に勤めるエンジニアというもう一つの顔を持っている。

チェコ戦で先発した佐々木郎希(写真:CTK Photo/アフロ)チェコ戦で先発した佐々木郎希(写真:CTK Photo/アフロ)
日本戦で力投するサトリア(写真:CTK Photo/アフロ)日本戦で力投するサトリア(写真:CTK Photo/アフロ)