チェコの首都プラハの街並み。右上に見えるのがプラハ城(写真:hoyano/イメージマート)チェコの首都プラハの街並み。右上に見えるのがプラハ城(写真:hoyano/イメージマート)

 チェコ共和国での海外勤務に就いていた会計士・斉藤佳輔(KPMGあずさ監査法人)。そこで野球チェコ代表のフィリップ・スモラ内野手と出会ったことをきっかけに、胸の中でくすぶっていた野球への情熱が一気に溢れ出した。無謀とも思える挑戦の真意とは?(文:矢崎良一、企画原案:斉藤佳輔)

◎第1話「仕事と野球の二刀流で世界の野球ファンを虜にしたWBCチェコ代表、そのサクセスストーリーの原点にある大谷翔平との邂逅
◎第2話「俺はやり切っていない!野球をあきらめ、野球をこじらせ続けた男がチェコの野球リーグに飛び込むまで

 2023年春。2019年から始まったチェコ駐在は4年目を迎えていた。監査繁忙期にあたる4月、斉藤は自らの監査エンゲージメントで手一杯の日々の中、合間を縫ってなんとかトレーニングを継続していた。

「練習に参加させてほしい」と何度も頼み込まれ、最初は笑ってあしらっていたスモラも、次第に斉藤の本気を汲み取ってくれたのか、チームの監督を紹介してくれることになった。

 スモラが所属する「テンポ・プラハ」は、チェコの野球リーグ、チェコ・エクストラリガの中の1チームだ。首都プラハに本拠地を持ち、2023年のシーズンはチェコ・シリーズ(NPBにおける日本シリーズ)に進出し、準優勝を果たしている。

 初めて監督のルボミール・チュヘルと顔を合わせた時、横にいるスモラの背筋が伸びるのがわかった。鋭い目で斉藤を見つめているこの指揮官が、威厳ある人物であることはすぐに理解できた。

 斉藤はまず野球歴を尋ねられた。だが、彼の野球履歴書の中には、特に取り上げられるようなキャリアはない。言ってしまえばただの野球ファンに過ぎず、チェコに来てからしばらくは現地でボールを握ったこともなかった。

 しいて言うならば、20代の後半に独立リーグのトライアウトを受けてるという程度。本格的に硬式球を握るのは、それ以来のことになる。

「明日、6時にグラウンドに来なさい」

 チュヘルは斉藤にそう伝えた。チームの練習に参加させてくれるという。

 通常、チェコのトップリーグのチームに入団するためには、その前年に実施されるトライアウトに合格する必要がある。もしくは「補強選手」に該当する外国人選手が、球団とプロ契約を交わしてチームに合流する(1チーム4名まで)。

 斉藤の場合、そのどちらにも該当しない。そんな中でテストをしてくれるというのは特例中の特例と言っていいだろう。