チェコの野球には無限の可能性がある(写真:CTK Photo/アフロ)チェコの野球には無限の可能性がある(写真:CTK Photo/アフロ)

 今も成長の課程にあるチェコの野球。そこには向き合わなくてはならない厳しい現実もある。チェコの野球と思わぬ形で関わりを持ち、4年間のチェコ駐在を経て帰国した斉藤佳輔(KPMGあずさ監査法人)は、今もチェコ野球を日本からサポートしている。それを自らの仕事とどうリンクさせていくことができるのかというテーマとも向き合っている。(文:矢崎良一、企画原案:斉藤佳輔)

◎第1話「仕事と野球の二刀流で世界の野球ファンを虜にしたWBCチェコ代表、そのサクセスストーリーの原点にある大谷翔平との邂逅
◎第2話「俺はやり切っていない!野球をあきらめ、野球をこじらせ続けた男がチェコの野球リーグに飛び込むまで
◎第3話「『練習に参加させてほしい』チェコの野球リーグに飛び込んだ日本人が練習参加で直面した現実
◎第4話「なぜチェコで野球が広まったのか?東西冷戦の終焉と野球に自由を重ねた親世代が撒いた種

 昨春のWBC日本ラウンドで、チェコの選手たちは大きな賞賛を浴び、日本での知名度を上げて、胸を張ってチェコに帰国した。ただ、それはあくまで日本から見たストーリーであり、チェコにおける彼らの環境はまだ劇的な変化には至っていない。

 当時チェコに駐在していた斉藤が、WBCの大会直後にグラウンドへ行ってみると、そこで野球をしている人は誰もいなかった。それが現在のチェコの野球が直面する現実でもある。

 チェコでは野球はいまだマイナースポーツとされている。アマチュアの立場であるため、トップリーグの選手でさえも一部のトッププレーヤーを除けば、試合に出場することによる給料の支給はない。つまり、野球でメシを食うことはできていない。

 そうした環境下では、会計士との二足のわらじを履くフィリップ・スモラのように、別の職業を持ちながらプレーする選手がほとんどなのも当然だろう。

 それどころか、良い素質を持ちながら途中で諦めてしまう選手もかなりいる。日本の野球界なら大学を22歳で卒業し、そこから本人次第でプロや社会人野球でプレーするチャンスがある。

 しかし、チェコでは18歳、19歳の未成年の段階で、まだプレーヤーとしてのピークが来る前に野球をやめなくてはならない。それでは野球人口がピラミッド型にはならない。

 斉藤はチェコの野球を「トップクラスの個々のレベルは高いが、日本のように層が厚いとは言えない。それだけに、今後もっと発展する余地がある」と評する。

 日本で野球がメジャースポーツたりえるのは、企業のバックアップがあったり、スポンサーが莫大な資金提供をしてくれているという背景がある。その視点でチェコの野球を見た時に、野球にお金を使おうというスポンサーは極めて少ない。

 球場に行くと、フェンスやスタンドに日本の球場のような広告をほとんど見かけない。外野フェンスのライトからレフトまで青い壁のままの球場がほとんどだ。