日本を相手に健闘したWBCでのチェコ代表(写真:CTK Photo/アフロ)日本を相手に健闘したWBCでのチェコ代表(写真:CTK Photo/アフロ)

 昨春、東京で開催された第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)第1次ラウンド。一躍脚光を浴びたのが、それまで野球に関する情報があまり伝えられることのなかったチェコ共和国だった。

 代表選手のほとんどが教師や消防士、電力会社勤務など、それぞれに職業を持ちながら野球選手として活動しているチェコが、大谷翔平(ドジャース)らメジャーリーガーを含めたオールスターチームの日本代表・侍ジャパンと対戦し、溌剌とした全力プレーを続ける姿は、勝敗を超えて多くの人の感動を呼んだ。

 それは、一つの夢の結実であり、同時に、新たな夢の始まりでもあった。「小さな国の大きな夢」と、その夢に伴走する男のドキュメンタリーを5話にわたって書き綴る。(文:矢崎良一、企画原案:斉藤佳輔)

 第5回WBCは、当初、2021年に開催される予定だったが、コロナ禍のため開催が延期されている。大会日程の再編に伴い、米国のアリゾナで開催予定だった予選ラウンドA組は、ドイツのレーゲンスブルクでの開催に変更されることになった。レーゲンスブルクは、チェコの首都プラハから国境を越えて200kmほどの場所にある風光明媚な工場都市だ。

 予選ラウンドA組は、開催国のドイツ、スペイン、フランス、イギリス、南アフリカ共和国、そしてチェコ共和国の6カ国が出場し、ダブルエリミネーション方式(敗者復活戦を含めたトーナメント)により、2カ国がWBC本戦への出場権を獲得する。

 2022年9月、大会が開幕。チェコはベストメンバーでレーゲンスブルクへと乗り込み、戦いに臨んだ。当たり前に思えるそのことが、実はこのチームにおいてはスペシャルなことだった。

 なぜなら彼らのほとんどがチェコ国内で自らの仕事に就き、日頃から多忙なスケジュールをやりくりしながら、まさに「二刀流」でチェコ代表としてプレーをしていた。隣国とはいえ、こうして長期の遠征に参加するのも簡単なことではないのだ。

 トーナメント初戦のスペイン戦、チェコは7-21で敗れる。格上の相手とはいえ、屈辱的な大敗だった。スペインは順当に勝ち上がるが、イギリスとの代表決定戦で、延長10回タイブレークの末に10-9でサヨナラ負けを喫する。勝ったイギリスが、まず第1代表の座を手にした。残るイスは一つ。

 第2代表を賭けた敗者復活トーナメント。チェコはフランスを7-1、ドイツを8-4とヨーロッパの強豪国を連破して勝ち上がり、代表決定戦で再びスペインと対戦した。