チェコ代表の選手たちの本業

 多くの人がスペインの勝利を予想していた。初戦の悪夢のような大敗の残像は、いまだに選手たちの脳裏にあった。チェコ代表を率いるパベル・ハジム監督は、試合前、不安げな表情を浮かべる選手たちに、「これは神様から与えられたギフトだ」とポジティブな言葉を掛けて鼓舞した。

 試合は1回裏にスペインが1点を先制するが、続く2回表にチェコの6番打者マルティン・ムジークの逆転ツーランが飛び出す。盛り上がるチェコのベンチ。しかし、そこからの8イニング、彼らだけでなく、自国のテレビで観戦したチェコの野球ファンは何度も心臓が口から飛び出しそうになったことだろう。

 スペイン打線に自軍の5本を上回る9本の安打を許し、毎回のように塁上に走者を背負ったからだ。それでもチェコは投手を中心とした必死の守備で失点を防ぎきり、3-1で勝利を収めた。

 9回裏、二死一二塁のピンチで、スペインの最後の打者を一塁ゴロに打ち取ると、チェコの選手たちが雄叫びを挙げながらマウンド付近で歓喜の輪を作る。テレビの実況をしていたアナウンサーがこう絶叫した。

「It’s a new international landscape! Czech Republic is heading to the World Baseball Classic! Small country with Big dreams!」(新しい世界の景色が見えた。チェコ共和国がWBCに出場する。小さな国が大きな夢を実現させた)

 大会後、MLB(米国メジャーリーグ機構)の監修により、この予選ラウンドを特集したドキュメンタリー番組が制作されている。番組のタイトルは「Small country, Big dreams.」(小さな国の大きな夢)。それはチェコ代表のハジム監督が日頃からよく口にしていた言葉でもあった。

 ここからチェコ代表のストーリーは、日本でのWBC本戦・第1次ラウンドに続いていく。

 このチェコ代表のメンバーの中の一人に、フィリップ・スモラという選手がいる。

 スモラは初戦のスペイン戦では先発を外れたが、敗色濃厚の展開の中、代打で出場してヒットを打ち、そのままサードの守備に入った。次の試合から「8番、サード」としてフル出場を果たしている。

 2021年のU23ワールドカップではチェコ代表の4番を任され、この2022年には、チェコの国内リーグで全選手中2位の本塁打数を記録しているスラッガーだ。

 同時に、世界的知名度を持つ会計事務所、KPMGの監査法人に所属するアナリストでもある。

アナリストという別の顔を持つスモラ(写真:CTK Photo/アフロ)アナリストという別の顔を持つスモラ(写真:CTK Photo/アフロ)