ブームに荷担する教育界や医療界

──新宗教ブーム、パンクブーム、暴走族、人体改造(極端なピアスやタトゥーの装飾)、オタクカルチャーなど、特定のファッションや思想、行動様式で結ばれる時代ごとの若者のムーブメントと同質なのではないかという印象も受けました。ただ、手術をして「性別の変更」にまで踏み切るという点を考えると、かつてのブームとは少し次元が違う気もします。

岩波:表面的には非常に似ていると思います。特有のファッションを身にまとうことで、時代の先端を行っている感覚を持つことができる。問題は不可逆な治療にまで行ってしまうことがあるということです。それがなければ、問題にする必要性は少ないでしょう。

 この著者は本の中で、思春期ブロッカー(※)についても言及しています。思春期ブロッカーが必要な疾患を持つ方もいますが、トランスジェンダーだから使うというのは、本来の適応ではなくリスクが大きいと思います。

※思春期ブロッカー:第二次性徴を抑制するホルモン剤。胸や顔の毛、喉仏の発達など、思春期の身体的変化を遅らせたり抑えたりする効果がある。

 思春期ブロッカーやテストステロンといったホルモン剤を思春期に使うことは、脳や生殖器の成長を止める恐れがあるからです。

──トランスジェンダーと自認したものの、その後、性移行を撤回する「ディジスター」、医療処置で外見を変えたものの、後悔してもとに戻そうとする「ディトランジショナー」といった方々の証言も本書では取り上げられています。

岩波:未成年であっても「性別違和」を訴えれば、受け入れられるのが今のアメリカです。でも、その「性別違和」を客観的視点で保証するものはありませんし、家族の同意も不要とされています。

 本人がトランスジェンダーだと言えば、未成年であってもその意思を認め「ホルモン療法を始めましょう」と話が進んでしまうのです。しかしながら、こうした性別違和には医学的な根拠は希薄であり、本人の感じ方が変わることも実は珍しくはありません。

 アメリカの現状は、その人の感じる性別違和について、本人の意向に教育界や医療が荷担しすぎていることは間違いありません。その人の将来を考えると、あまりにも軽々しい無責任な判断をしている例が少なくないと思います。

シオピン酸テストステロン注射の小瓶を手にする人。トランスジェンダーのホルモン療法などで使用される(写真:AP/アフロ)シオピン酸テストステロン注射の小瓶を手にする人。トランスジェンダーのホルモン療法などで使用される(写真:AP/アフロ)