トンネルを出ると熊の平で休憩だ。かつて信越本線の信号場(一時は駅に昇格)や変電所が設けられ、戦前には付近に鉄道官舎もあった鉄道のまちだったが、今は廃線らしい静かな趣きに包まれている。

 ここでお弁当タイムとなる場合もあり、あの名物駅弁「峠の釜めし」を自然豊かな中で賞味する。釜めしには「廃線ウォーク」特製の掛け紙が付いているので、容器の釜を返しても記念の品が手元に残る。かつて横川駅で電気機関車付け替えの停車時間に特急「あさま」や急行「信州」から駆け下りて、立ち売りに殺到して釜めしを買い込んだ懐かしい思い出のある人も少なくないだろう。

 こうして歩いてみると、単にトンネルの多い廃線を歩くだけでなく、さまざまな仕掛けが用意されていて参加者を飽きさせないうえ、天候に恵まれなかった時にも上原さんらガイドによる心配りが満足度を高めている。

 そして、地元事業者との連携体制が構築されていることも、年間約1800名を集客した「廃線ウォーク」の安定したイベント運営、次の一手を編み出す土壌にもなっている。その陰には若い上原さんをバックアップする安中市観光機構の推進体制があることも成功要因のひとつに感じる。

トンネルの間の橋梁で写真タイム

今春から始まった“夜の廃線ウォーク”

 この先、軽井沢までトンネルがまだ15本あるが、碓氷の新緑を感じながらのウォークは非日常感もあり飽きさせない。この熊ノ平から遊歩道「アプトの道」を引き返せば、明治中期の技術の粋を結集して建造された煉瓦や石造りの見事なトンネル群、そして碓氷第三橋梁(めがね橋)を歩ける。興味のある方は筆者の担当する「廃線ウォーク」(2024年春は5月3日開催)の特別企画で、軽井沢発で昭和の新線区間、および明治の旧線「アプトの道」をご案内したい。新緑に包まれた碓氷峠の廃線跡を満喫でき、首都圏から日帰りが可能だ。

雰囲気を損ねない旧線トンネル内のライトアップ(写真提供:一般社団法人・安中市観光機構)

 碓氷峠の「廃線ウォーク」は、今春から新たな展開を始めている。定期開催としては全国で例のない“夜の廃線ウォーク”だ。その名も「メロディックライトウォーク」。最新機器を活用し、光と音、映像を組み合わせたオリジナルストーリー展開を楽しむ没入型のナイトウォークである。

 観光DXによりナイトタイムエコノミーを推進し、今まで手付かずだった夜の時間帯を活用して新たな時間消費を地域で促進するこの取り組みについては、続編でご紹介する。

※訪問時の注意事項
トンネルなど廃線は現地事情により入れない場合もあります。また、現地では主催者の案内に従っていただき、立入禁止区域には入らないようにご注意ください。

◆5月3日(金)開催☆特別企画
「碓氷峠トンネルツーリズムプランナー花田欣也と行く碓氷峠廃線ウォーク」
https://haisen-walk.com/event/1404
昭和の新線区間および旧線「アプトの道」の明治のトンネル・橋梁群をめぐる特別企画。お申込みは安中市観光機構まで(要予約)。