急にしぼんだ処理水抗議の声
私が一時帰国で韓国を離れたのは、そうした一連の出来事で盛り上がっていた頃である。だからその時期に「福島汚染水」という言葉が連呼されるのは、当然の流れであるといえる。
海洋放出はこの夏に実施される見込みと報じられている。そうであるからには、これからさらに反対の声が高まるのだろうと考えていた。しかし、グロッシ事務局長と野党議員の面会以降、なぜか反発の声はしぼんでいく。
そもそも、科学的根拠に乏しかったから反対運動に持続力がなかったか、野党支持率が低下して処理水ばかりにかまけていられなくなったか、豪雨による災害でそれどころではなくなったか。明確な理由は定かではないが、野党議員やその支持者たちは信念もなく、尹政権を揺さぶるために政治利用しただけともいえる。
そんな中途半端で不可解な点は、中国に対する態度にも表れている。福島処理水の海洋放出に反対しているのに、中国の原発から放出されている放射性物質トリチウムには沈黙していることだ。
中国の原発から放出されるトリチウムについては、5月に韓国メディアが「福島の1000倍も危険」と報じた。6月23日付の読売新聞によると、中国の原発によるトリチウムの年間排出量は、福島の処理水の海洋放出と比べて、2021年のデータでは最大で約6.5倍に及んでいたという。
その1つが大連市に位置する遼寧紅沿河原子力発電所で、ここでは福島の4倍を超えるトリチウムが黄海に放出された。19年のデータでもほぼ同じ排出量で、その98%
黄海は東西北の三方が塞がっているため、放射性物質はそのまま南に向かい、朝鮮半島の東海岸沿岸を流れていく。その海域は韓国の大きな漁場のひとつであり、とりわけ盆や正月の祝いの席で食べられるイシモチの一大生産地である。
イシモチというと日本ではあまり重宝されないが、この沿岸のイシモチは味も良い。特に干物は味が濃厚で高値がつく。また、塩田が広く分布しており、天然塩が多く生産される。