- 韓国では「オグラダ」という言葉が頻繁に出てくる。
- 「悔しい」「口惜しい」と訳されるが、実際は不利益を被った時に行き場所のない悔しさを表現する言葉である。
- 言葉は文化。韓国人の心の中には、不利益に直面した時に、他人のせいにするDNAのようなものが確実にあるという。
(立花 志音:在韓ライター)
「お母さん、タオルちょうだーい。もうすごいびしょ濡れだよ、靴下まで。もう傘、意味ないじゃん」
一週間ほど豪雨が続いたある晩、帰宅した16歳の長男が玄関から叫ぶ。
厚手のタオルをつかんで、玄関までの廊下を筆者がパタパタと走る。
「お帰り、大変だったね。ほら、靴とズボン明日までに乾かさないといけないんでしょ。早く脱いで」
座って靴下を脱いでいる息子の頭に、ポンとタオルを乗せた。
筆者の住む南西部は、ソウルと違ってもともと雨が少なかった。筆者が住み始めた10年前は、傘を使う日が数えるほどしかなかった。20年前の夏にソウルにいた時は、非常に雨が多かったので、同じ韓国なのに梅雨がない地域があるのかと驚いたものだ。
しかし、ここ2,3年ほどで確実に雨の日は激増している。来年はおそらくもっと増えるだろう。
韓国には、「雨が降ったらプッチンゲを焼く」という言葉がある。
このプッチンゲというのは、お好み焼きのようなもので、日本人には韓国料理の「チヂミ」として知られている。
お好み焼きと違うのは、フライパンに油を多めに注ぎ、生地は薄く延ばしてカリっと揚げ焼くところである。片面が焼けたらひっくり返して、また油を加えて揚げ焼くその音が、雨音に似ていることから、そのような言葉が生まれたようだ。
結婚したての頃、雨の季節に義父母の家に行った時に、初めてその言葉を聞いた。
義母の話によると、昔はお金がなかったし、雨の日は市場に行くのも大変だった。だから、ある材料を小麦粉と混ぜてプッチンゲを焼いたのだそうだ。
今は韓国でも雨が降ろうが、雪が降ろうが、好きなのものが食べられる時代になって久しい。
でもふと、しとしとと雨が降る夕方に、子供たちと一緒にプッチンゲを焼いていると、帰宅した夫が「お。雨が降ったから~」と言いながら台所に入ってくる。
そんな何気ない日常に、筆者は韓国の風情を感じるのである。