増加を続けたインバウンドに対応するため、羽田空港の増便を視野に入れた飛行ルートの運用が始まって2年半。コロナ禍で航空需要が減っているにもかかわらず、安倍政権時代に決めた政策が継続している。住民や自治体が騒音や落下物の問題について異論を唱えても、政府はまともに対応してこなかった。ようやく見直しに動くとの報道(「羽田発着、東京湾上空に新ルート 騒音緩和へ国交省検討」日本経済新聞電子版、9月21日)も出たが、この案は昨年8月にすでに出されていたもので、世界の例を見ても実現可能性はゼロに等しい。世界の航空界やパイロットからも安全面の疑義が出ているこの問題について、「机上の空論」に固執していては物笑いの種にされてしまう。
(杉江 弘:航空評論家、元日本航空機長)
コロナ禍で便数減なのになぜ継続するのか
「暑い夏に窓も開けられない」「2分半に1度の騒音で身も心もズタズタだ」
2020年3月29日に羽田空港の新たな飛行ルートが始まってからもうすぐ2年半となるが、住民から上がるこんな悲鳴に国は何の対策も講じずにここまできた。
増加を続けるインバウンド(訪日客)への対応と東京五輪・パラリンピック開催に向けた羽田空港の受け入れ強化のため、東京都心上空を着陸時の飛行経路に使う。安倍政権の意向を受け計画されたものだ
住宅密集地の都心上空を飛べば騒音問題が起きる。また機体からの落下物があれば大きな事故につながりかねない。リスクを避けるためにこれまで羽田の飛行ルートはできる限り海上が使われてきた。
都心を飛ぶルートに対し、多くの住民が反対し、関連自治体も反対意見や元の海上ルートに戻すべきだという意見書を採択しているが、国はまともに向き合おうとしていない。
防音対策についても、国土交通省はルート上にある学校や保育園、病院などの防音工事については補助するが、住宅は対象外としている。
そもそも、コロナ禍にあって羽田空港を離着陸する航空機の便数が大幅に減っているのになぜ都心ルートを続けるのか。都民だけでなく航空機の利用者を含めた素朴な疑問であろう。