写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ

 マッキンゼー・アンド・カンパニー出身のコンサルタントらが行った調査によると、40年前に「超優良企業」と呼ばれていた企業群のうち、現在までに約4分の1が破綻もしくは買収を経験しているという。栄枯盛衰が激しいビジネスの世界において、輝き続ける企業とそうでない企業との違いは何なのか。本連載では『超利益経営 圧倒的に稼ぐ9賢人の哲学と実践』(村田朋博著/日本経済新聞出版)から内容の一部を抜粋・再編集。成長を続ける経営者たちの思考や哲学を元に、現代の経営に求められる教訓を探る。

 今回は、ローム創業者・佐藤研一郎氏を紹介。成功確率の低い半導体事業への参入を成功に導いた勝負強さに迫る。
 

ローム創業者 佐藤研一郎氏
ピアニストからの転身。ニッチを見極め「賭け」に勝利した経営者

超利益経営』(日本経済新聞出版)

■ 真似できないニッチの見極め――ピアニストから経営者へ

 佐藤研一郎氏は立命館大学で学んだ技術者です。同時に、学生時代には日本を代表するコンクールで準優勝するほどの技量を持ったピアニストでした。しかし、ピアニストでは1位になれないと判断、ピアノに鍵をかけ、その鍵を川に投げ捨てました。そして、自宅の風呂場で電子部品(抵抗器)を開発、起業しました。

 もしあなたが著名コンクールで準優勝するほどの技量を持っていたら、ピアニストの道をあきらめられるでしょうか? まず間違いなく、ほとんどの人があきらめられずに過ごすでしょう。天賦の才に決別し、別の道を選択した氏の決断、すなわち、ニッチ(自身の適性)の見極めに感服せざるを得ません(この点については第3章でも改めて議論します)。

 ロームを世界的な企業に育てあげた佐藤氏は、自身の持ち株を活用し、音楽財団ローム ミュージック ファンデーションを設立しました。同財団はロームの株式の約10%を保有し、年20億円程度の配当を受け取っています。佐藤氏は自身がピアニストになることは断念したのですが、音楽家の支援・育成に力を入れたのです。

 その佐藤氏から学んだ最大のことは、①冷徹な客観視、②ニッチ、③勝負時の見極めです。

■「僕はギャンブラー」――大勝負① 巨大企業への挑戦

 ロームの売上高のほとんどは半導体で、祖業である抵抗器の売上高は全社の5%程度になっています。社名のローム(ROHM)は、R=Resistor(抵抗)、OHM=オーム(抵抗の単位Ω)の組み合わせですが、現在のロームは一般には半導体メーカーとして認知されています。