ロシア空軍は複雑な航空作戦能力を欠いている

 ブロンク氏は「ロシア航空宇宙軍は大規模で複雑な航空作戦を計画、実行する制度的能力を欠いている」と指摘する。確かに、シリアでの作戦は小規模な編隊での運用だった。「ロシアの作戦指揮官は脅威の高い空域で数十から数百の部隊が参加する複雑な航空作戦を計画、調整する方法についてほとんど実践的な経験を持っていない。操縦士の年間飛行時間も約100時間、多くの場合はそれ以下で、180~240時間の北大西洋条約機構(NATO)の約半分」という。

 ロシア軍の出撃回数は1日当たり200~250回。しかしウクライナ軍の要撃を避けるため、出撃は日没時の午後8~11時と午前2~5時の間に限られている。ほとんどはウクライナ領空に入らず、ロシアやベラルーシの領空から攻撃している。燃料補給にも深刻な問題を抱えている。

 ただ、ロシア航空宇宙軍が緒戦の失敗を反省し、ある程度の犠牲を覚悟の上で大規模な航空作戦を実施すれば、制空権を確保して戦争の流れを変える可能性は残されている。

 それにしても、今回の侵攻まで長い準備期間があったにもかかわらず、プーチン氏はなぜこのような大失態を演じたのか。その理由をたずねた筆者に、ブロンク氏は「全くその通りだ。過去12~18カ月、彼らは侵攻を準備してきた。ロシアはこの6~7年、極めて日和見主義的に動いてきた。つまり、物事を行うための条件を整え、隙があると判断すれば非常に迅速に行動に移した。しかし今回、プーチン氏の日和見主義的なギャンブルは明らかに危険すぎたのかもしれない」と答えた。

 ブロンク氏によると、プーチン氏はウクライナ東部紛争やシリア軍事介入でも12~13カ月かけて条件を整え、状況に合わせて「日和見主義的に」迅速な決断を下すサイクルを繰り返してきた。

「このサイクルでは軍に十分準備する時間が与えられない。将官レベルで作戦準備を整えるのに2~3週間以上前に監査を行う必要があるが、行われなかった。彼らの偽情報作戦プレイブックはとにかく幼稚すぎた」

「核心をついた西側の情報が次々と公開され、それを隠そうとするあまり、さらにパラノイアになり、侵攻の24時間前まで現場の指揮官に本当の情報が伝えられなかった。戦術レベルでは国境を越えてから伝えられた。大きな原因は意思決定の構造やパラノイアにある。しかし最大の問題はロシアがウクライナを見下してきた傲慢さにある。ロシアはウクライナの国家としての能力、強い組織力、アイデンティティーに直面するとは思っていなかった」