北朝鮮・平壌で行われた党創建75年軍事パレード(2020年10月、写真:KCNA/UPI/アフロ)

 3月24日午後3時44分頃、北朝鮮西海岸からICBM(大陸間弾道ミサイル)が発射された。このミサイルは71分間飛行し、15時44分頃、北海道渡島半島の西方150kmの日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。飛行距離は1100km、最高高度6000kmを超えた。

 米国のバイデン政権はこれまで、北朝鮮の弾道ミサイル発射を強く非難してこなかったが、今回の発射は米国を攻撃することを想定したICBMだ。

 米国全土を射程に収めたICBMとしては2017年11月に発射された「火星15」があるが(このときは高度約4500kmまで打ち上げ日本海の日本のEEZ内に落下したが、通常軌道なら射程は1万3000kmほどになると推測されている)、今回発射されたICBMは最高高度が6000kmを超えていることから考えると、火星15とは別の新型のICBMである可能性が高い。バイデン政権としてはとても無視できるものではない。

 今回のICBM発射は、核兵器と弾道ミサイルを巡る米朝の対立が新たな段階に入ったことを意味する。

米国が武力行使できない理由

 では、北朝鮮から核兵器とICBMを取り除くため、米国は北朝鮮への武力行使に踏み切るだろうか? 筆者はその可能性は極めて低いと考える。バイデン政権は北朝鮮と核兵器とICBMの廃棄を巡っての交渉を行うことになるだろう。

 武力行使の可能性が極めて低い理由は、米国が北朝鮮へ武力行使することは、中国と対決することを意味してしまうからだ。というのも、中朝友好協力相互援助条約には「自動介入条項」があるのだ。

 同条約第二条には「両締約国は、共同ですべての措置を執りいずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。いずれか一方の締約国がいずれかの国又は同盟国家群から武力攻撃を受けて、それによって戦争状態に陥ったときは他方の締約国は、直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える」と定められている。

 このため米国が北朝鮮への武力行使に踏み切ろうと考える場合、事前に中国から「どのような事態になっても介入しない」という確約を得ておく必要がある。さらに、金正恩政権後の新体制について合意しておくことも必要だろう。だがもちろん一筋縄ではいかないはずだ。

 もしこの条件が達成できたとしても、さらに米国は日本政府と韓国政府に対して、北朝鮮の弾道ミサイルで攻撃を受けることを承認させなければならない。どちらの国もおよそ承服しかねる事柄であり、現実味は薄い。

 2018年のトランプ大統領と金正恩の米朝首脳会談は歴史的なものだったが、北朝鮮の非核化に関しては1ミリも進展しなかった。これは、核兵器や弾道ミサイルに関する今後の交渉が難航することを示唆している。