彼らは船が沈む瞬間まで演奏を続けた(写真:Alamy/アフロ)

 1997年に米国映画「タイタニック」が公開された。1912年4月15日、北大西洋を航海していた超豪華客船、タイタニック号の沈没事故において、階級を超えた男女の愛の物語を描いたヒューマンラブストーリーである。映画「タイタニック」は北朝鮮でもブームになった。なぜ米映画が北朝鮮でブームになったのだろうか。

(過去分は以下をご覧ください)
◎「北朝鮮25時」(https://jbpress.ismedia.jp/search?fulltext=%E9%83%AD+%E6%96%87%E5%AE%8C%EF%BC%9A)

(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)

 米映画「タイタニック」が世界的な旋風を巻き起こすと、金正日総書記(当時)は外国映画の輸入機関だった党15号文献室に、「タイタニック」を緊急搬入するよう指示を出した。

 指示を受けた党15号文献室はモスクワの在ロシア北朝鮮大使館の映画代表部を通じて、「タイタニック」の不法コピーを持ち込んだ。正規の資金を払って輸入するには値段が高すぎたのだ。

 そうして持ち込まれた「タイタニック」は、ただちに翻訳され、北朝鮮翻訳映画製作団の有名声優による吹き替え作業の後、金正日氏のもとに届けられた。

「タイタニック」を見た金正日氏は真剣な表情になった。米国映画の水準の高さを実感したのだ。タイタニック号と運命をともにする人々や船が沈む瞬間まで演奏を続ける音楽家、死を目の前にした人々の描写──。沈没が目前に迫った人々の姿に、金正日氏は感嘆を禁じえなかった。

 金正日氏は映画を見た後、休息を取って再び映画を鑑賞した。そして、一緒に映画を見た党幹部たちに、こう尋ねた。

「主人公の男性がヒロインの女性と別れて水の中に深く消えていく最期の場面を見てどう考えるか。他の遺体が周囲の海に浮かんでいるが、なぜ主人公の男性は女性主人公と別れて水中深く沈んだのか。わかる人がいるなら答えてみなさい」

 党幹部は口を揃えて批判した。