スナイパー避けのコンクリートに沿って歩く市民(写真:橋本 昇)
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(フォトグラファー:橋本 昇)

*記事中の画像に一部刺激の強いものがあります。ご注意ください。

(前編より続く)https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69330

 小さな女の子が両手に抱えた野菜スープから湯気が上がっていた。真冬の陰鬱な曇り空が続いていたサラエボに、この日は珍しく青空が広がり、丘の上の家までくっきりと見通すことができた。市場の近くの空き地では炊き出しの熱いスープに行列ができていた。

 その時だ。突然、空気を張り裂くような凄まじい爆発音が市場の方から響いた。

市民が集まる市場を狙った卑劣な砲撃

 市場に走った。市場のあたりには火薬の臭いと煙が立ち込め、煙の中で喚き声や泣き叫ぶ声が飛び交っていた。

 潰れた陳列棚、散乱した商品。そして、大勢の人々が折り重なるように倒れていた。バラバラになった体、人々の腹や胸には金属のようなものが喰い込んでいる。路面は、倒れている人達の体からどんどん溢れ出てくる血で真っ赤な血の海になっていた。

 一人のスカーフを被った中年女性と目が合った。彼女の両膝から下は爆風で吹き飛ばされていた。その女性は血溜まりに両手をついて必死に起き上がろうとしていたが、しかし、やがて全身を痙攣させながら力尽きた。カッと目を見開いたまま動かなくなった女性の傍らに、血に染まったホウレン草が一束落ちていた。

マルカレ市場で虐殺された市民(写真:橋本 昇)
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 その市場には、ほんの一時間ほど前に行ったばかりだった。市場は人で混雑していた。もう簡単には手に入らなくなった食料品や日用品を求めて、多くの市民が集まっていた。