北海道に生息するエゾ鹿(筆者撮影)

(*記事中の画像に一部刺激の強いものがあります。ご注意ください)

「あそこにいるべ。手前に大きなボサ(薮)があるだろ? あの後ろの木の隣にいる。ちょうどいいサイズのメスだ。早く構えろ」

 師匠の声に促される前に弾をライフルの薬室に送る。ボルトを下げるとカシン、という金属音がする。スコープを覗き、十字の真ん中にターゲットのネック(首)を合わせ、じっくりと狙う。視線の先で拡大されたメス鹿は確かにちょうどいいサイズだった。小さすぎず年寄りでもなく、丸みを帯びた体にキッチリ肉が付いており、いかにも美味しそうだ。

「いいか、右腕はしっかり力を入れて固定しろ、引き金はスッと引くだけだぞ。左手は銃を乗せるだけで力を入れるな」

 何度聞いただろう。しかし何度言われても何かが足りないことはある。その時はもちろんターゲットに当たらない。銃床の頬付けが甘かったりして反動でのけぞったりすることはだいぶ減ったが、ゼロではない。右腕の力の入れ方が弱くてスコープがおでこに当たればまだいいが、眉間を割ったりする人もいるので気が抜けない。幸いそういう流血沙汰に見舞われたことはないが、いつでも可能性はある。

 アドバイス通り、力まずスッと引き金を引くと、「ズダーーン!!」と空気を切り裂くような銃声と「ダーンダーンダーン・・・」とこだまが鳴った直後に、師匠の「当たったぞ」という声がした。射撃姿勢は引き金を引く瞬間までは保持できるが、火薬が炸裂する反動で獲物を注視し続けるのは無理だ。私が現在使用しているライフルは知人から譲られたもので、サコーM75デラックスといい、300ウィンチェスター Magnum弾(通称300WinMag)というかなりの威力の大きい弾を使う。だからその分反動もある。実際、羆(ひぐま)も狙える銃であり、エゾ鹿しか狩らない私にはオーバースペックかもしれないが、ありがたく使い続けている。

仕留めたエゾ鹿と筆者。この時の銃はベネリM3Super90