大学を休学して志願兵に
兵士に志願した若者も多い。
サラエボ空港近くの最前線で一人の若い兵士と話をした。水が溜まりぬかるむ塹壕から、眼鏡をかけたおよそ兵士らしくない青年が、両手でライフル銃を抱えて出て来た。その青年はアメルと名乗って、サラエボ大学を休学中だと言った。
「僕はどうしようもない奴だったんだ。大学でろくに勉強もせずに、女の子ばかり追っかけていたんだ。だけどこうなって、父や母、兄弟、友人が死ぬのは見たくないから、兵士に志願したんだ。国を守るって事は家族を守るって事だろう? ボスニアには国連保護軍がいるけど、一発だって撃てないんだ。確かに銃は持っているけどね。PKOってやつで、いる事でボスニアとセルビア人の間に割って入るらしいが、せいぜいスナイパーからの弾避け程度にしかならないよ」
「僕は兵士になるまで気が付かなかったけど、意外と射撃が得意なんだ。それでこのタコツボに入ってセルビア人兵士を狙っているんだ。どう? 人殺しが似合っているだろう」
そう言うとアメルは銃を構えてカメラの前に立った。
「でも平和になっても、もう勉強には戻れないかもしれないね。銃を撃つたびに勉強したことが一つずつ消えていくような気がするよ」
横にいたもうひとりの兵士が言った。
「セルビアのミロシェヴィッチはまったく酷いことをしやがる。誰だって体がバラバラに砕け散るために生まれて来たんじゃないんだぜ。セルビア人武装組織のボス、カラジッチは精神科医なんだろ。奴は『サラエボの人間が気が変になるまで砲弾を撃ち込め』と言っているらしいが、あいつの頭の方が先におかしくなっている。笑うぜ!」