政権交代期にある韓国で、新旧権力が激しく衝突している。大統領候補時代の公約だった「大統領執務室の移転」を実行しようとする尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏の計画に対して、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が「安保」を口実に必死の“妨害”を試みている。僅差で惜敗した腹いせでもするかのように、文在寅政権による最後の嫌がらせが始まっているのだ。
国民生活と隔絶した「青瓦台」という空間
韓国大統領の官邸と執務室がある青瓦台は、韓国の「帝王的大統領制」を象徴する場所だ。
朝鮮時代の王の住処だった景福宮の裏側に位置する北岳山につながる7万坪を超える土地に、官邸と執務室、迎賓館の他、数棟の建物で構成されている。青瓦台の中は、記者クラブの担当記者であっても出入りできるのは最外側にある「春秋館」のみ。それほど人間の出入りが徹底的に統制されている。
大統領は青瓦台の一番奥の官邸に住み、執務では大統領執務室のある本館を主に使用する。その本館から秘書室のある棟までは徒歩で15分程度かかるそうだ。朝鮮王朝時代の王宮を連想させるほど権威的で閉鎖的な空間の青瓦台は、韓国の大統領が国民と意志疎通できない原因とされてきた。
このため尹錫悦氏は大統領選挙期間中から、「青瓦台を国民に返還し、大統領執務室を光化門(クァンファムン)に移転する」という公約を掲げていた。市民生活の真ん中で執務し、国民と意志疎通を図るという意志を示したのだ。だから尹氏は当選が決まった後、政権引き継ぎのための委員会が構成されると、真っ先に大統領執務室移転の検討に入った。