(池滝 和秀:ジャーナリスト、中東料理研究家)
ロシアによるウクライナ侵攻に伴う原油価格の高騰を受け、林芳正外相ら各国要人が産油国であるアラブ首長国連邦(UAE)を相次いで訪問し、原油を増産するよう要請した。ロシアに天然ガスを大きく依存してエネルギー政策の見直しを迫られているドイツも同様、UAEなどに大臣を派遣し、「このままでは次の冬が越せない」と、エネルギー資源の確保に躍起になっている。しかし、ここには自己矛盾に陥りかねない危険がある。
西側諸国がかつてない強力な対ロシア制裁で結束する中、UAEは、ロシアのウクライナ侵攻を非難した国連安全保障理事会決議案の採決で棄権したし、ドバイはプーチン政権の支持基盤であるオリガルヒ(新興財閥)の「受け皿」と化し、「対ロシア制裁の抜け穴となっている」との疑惑の眼を向けられているのだ。
UAEやサウジアラビアは、石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなどで構成する「OPECプラス」との協調を、バイデン米政権の増産の呼び掛けよりも優先させる意向を示しており、事実、林外相もUAEから増産に関する言質を得られなかった。このようなUAEの態度に対して、「国際社会が苦境にある中で原油相場を人質に取り、自己利益の最大化に奔走している」との批判の声も上がっている。
活況呈するドバイの不動産市場
フランス政府は、同国南部ラシオタで、ロシア石油大手ロスネフチのイーゴリ・セチン最高経営責任者(CEO)が主要株主の法人が所有する豪華ヨットを差し押さえた。イギリス政府は、オリガルヒが多額の富を蓄積する街としてロシア風に「ロンドングラード」と揶揄(やゆ)されてきたロンドンにおける高級不動産を使ったマネーロンダリング(資金洗浄)の対策強化に乗り出した。
西側世界ではオリガルヒを圧迫するこうした動きが相次いでいる。だがこれらと逆行するかのように、ドバイには今、オリガルヒらロシア人がウクライナ侵攻に前後して大量に押し寄せている。豪華ヨットやプライベートジェットをドバイに移動させる者も多く、今やドバイは、ロシア人富豪にとって世界で数少なくなった有事の安全な避難先として活況を呈しているのだ。
世界で最も高い高層ビル「ブルジュ・ハリファ」がそびえ立ち、巨大ショッピングモールや屋内スキー場、人工島の豪邸など華やかな表情を見せるドバイは、企業や資金を呼び込むために規制を大幅に緩和し、世界の富裕層や投資家、実業家らを引きつけてきた。しかし、それに伴って発展途上国や独裁国家、権威主義国家で不正蓄財した政治指導者やオリガルヒのような利権によって財を成した胡散臭い人たちまで吸引する闇の部分も抱え込んだ。