3月24日、ブリュッセルで開催されているNATO緊急首脳会議でオンライン演説を行ったウクライナのゼレンスキー大統領(提供:Ukrainian Presidential Press Office/AP/アフロ)

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

 ウクライナのゼレンスキー大統領が、日本の国会でオンライン形式の演説をしたのは23日のことだった。

 その後の報道をみていると、ゼレンスキーの演説の内容が、日本人には正確に伝わっていないようなので、少し掘り起こしてみたい。

汚染された村ごと土砂で覆い隠した旧ソ連

 日本での演説に先立って、ゼレンスキーは英国や米国の議会でもオンラインで演説を行っている。英国ではシェイクスピアの『ハムレット』の言葉を引用したり、米国では「真珠湾を思い出せ」「9.11を思い出せ」と呼びかけたり、相手国の国民感情を刺激することに演説の特徴があった。

 日本の国会では冒頭、2月24日のロシアの侵攻開始直後からの日本の支援に謝意を伝え、日本をアジアのリーダーと位置づけた上で、「皆様はチェルノブイリ原発のことを御存じかと思います」と早速、切り出した。以下に衆議院のウェブサイトに公開されている演説の仮訳から、その文言を引用する。

〈ウクライナにある原子力発電所で、1986年に大きな爆発事故が発生した所です。放射性物質が放出されました。世界の様々な場所にその影響が出ました。チェルノブイリ原発の30キロメートル圏内は未だに危険なため閉鎖されております。爆発により生じた影響を除去する過程において、閉鎖された区域の中の森林に何千トンもの汚染物質、がれきや車両などが廃棄されました。地中にあるのです〉

 ゼレンスキーは演説の中で「フクシマ」とはひと言も使わなかったが、それが福島第一原子力発電所の事故を日本人に想起させていることは明白だった。だが、ここで福島の事情をそのままチェルノブイリに重ね合わせるのは間違っている。

 原子炉が爆発を起こしたチェルノブイリ原子力発電所から30キロ圏内には当時、人々が暮らしていた村があった。数にすると94箇所。その住人は事故直後に強制退去させられているが、それだけではなかった。