(朝比奈 一郎:青山社中筆頭代表・CEO)
3月23日、ウクライナのゼレンスキー大統領が、日本の国会でオンライン演説を行いました。そこでゼレンスキー大統領は、日本がアジアで最初にロシアへ圧力をかけ、経済制裁に乗り出したことに謝意を示し、引き続きロシアへの制裁を維持してほしいと訴えました。また戦後のウクライナ復興への協力も要請しました。
欧米各国で行った演説に比べれば、かなりソフトな内容で、憲法上、武器供与などが出来ない日本の状況もよく理解したうえで練られた内容だったと感じました。原爆投下や東日本大震災という大災厄を経験した日本国民の感情に寄り添う表現も随所に散りばめられていて、概ね好意的に受け止められていたと思います。日本政府としては、少なくとも短期的には、ゼレンスキー大統領の要請に対して満額回答に近い協力ができると思います。
ゼレンスキーが言葉にしなかった「日本への本当の期待」
しかし、ゼレンスキー大統領の本当の想いはもう少し深いところにあったような気がします。一言で言って、日本に期待し過ぎても仕方ないので露骨には言いませんでしたが、期待を滲ませた箇所がありました。それは、国際平和に対する日本のリーダーシップについてです。歴史的に様々な経験を積み、NATOの一員でもなく、もちろんロシアの勢力圏にもない立ち位置ならではこその日本への期待です。
ちょっと長いですが、該当部分を引用します(NHKの全文訳)。
〈国際機関が機能しなかったことを目の当たりにしたと思います。国連や安全保障理事会でさえも…。いったい何ができるのでしょうか。機能するため、ただ議論するだけでなく真に決断し影響力を及ぼすためには、改革、そして誠実さが必要です。
(中略)既存の安全保障体制を基盤にして、それ(*平和や安全保障体制の構築)はできるのでしょうか。
この戦争を見れば、絶対にできません。私たちはどんな侵略行為に対しても予防的に機能し、役に立つ、新たなツールや新たな保障体制が必要です。その発展のため、日本のリーダーシップが不可欠です。
ウクライナのため、世界のため、私からのお願いです。世界が再び、平和で安定した明日が訪れ、次世代の将来に自信を持てるようにしてください。
日本の皆さん! 私たちが力を合わせれば、想像以上に多くのことを成し遂げられます。私は、皆さんのすばらしい発展の歴史を知っています。
いかに調和を作りだし、守れるかを。規範に従い、命を大切にしているかを。環境を守れるかを〉
露骨には書いていませんが、我々は、ここに日本にもっと積極的な役割を担って欲しいというメッセージを読み取れないでしょうか?
こんな中、現在の日本の行動としては、果たして現状のものだけでいいのでしょうか。世論調査によれば、日本国民は今の岸田政権のウクライナ対応に概ね満足しているようですが(日経新聞の25日~27日付世論調査など)、対岸の火事ということで、最低限のことをするという「見て見ぬふりをする中での平和」というだけでは私は、不十分な気がします。
日本は外交的に、つまりウクライナとロシアの間の仲裁のために、もっと汗を流すべきではないでしょうか。いや、むしろ現在は、日本こそが外交で国際的なリーダーシップをとって停戦を働きかける最適任国になっていると思います。日本はその任を果たすべきだと思うのです。