ジンジャー・ブレッドの日本風アレンジ例(西京味噌づけのクリームチーズとクルミを載せたもの)。ベルギー大使館で、筆者撮影

ベルギーのソウルフード

 欧州の美食王国ベルギー。日本ではチョコレートやベルギーワッフル、ベルギービールなどがよく知られている。

 しかし、ベルギーのソウルフードとも言われる「ジンジャー・ブレッド」を知っている人はそう多くないのではないか。

 そのジンジャー・ブレッドが本格的に日本で発売される。ベルギー最大、世界でも第3位のジンジャー・ブレッドメーカー、ヴォンデル・モーレン社が日本での本格発売を発表したのだ。

 ベルギー大使館で3月6日に開催された発売記念イベントには、来日した最高経営責任者(CEO)のラファエル・デ・ゲント氏が出席、「舌が肥え、健康志向の強い日本の人たちになら、間違いなく高い評価を受けるだろう」と自信を見せた。

 ジンジャー・ブレッドとは名前の通り、生姜などのスパイスを練り込んだパンのこと。その起源は古い。

 ジンジャー・ブレッドの基になっているのは「ハニー・ブレッド」と呼ばれる蜂蜜を練り込んだパンで、エジプトやギリシャ、ローマ時代から栄養価が高く保存が利く食品として一般的に食されていた。

 ローマ時代に、アフリカ産の良質な生姜が手に入りやすくなったことから、ハニー・ブレッドに生姜を練り込んだジンジャー・ブレッドが多く作られるようになったという。

 生姜を練り込むことで、甘さにスパイシーな味が加わり多くの人の舌に合うようになったばかりか、栄養素と繊維質も豊富になった。脂肪分と塩分が少ないのも特徴だ。

 ヴォンデル・モーレン社のゲントCEOによると、アジアにもシルクロードを通じて古くから伝わり、チンギス・ハーンが東欧を征服しに来た時、兵士が携行していた記録が残っているという。

 ベルギーで一般的になったのは、紀元13~14世紀にかけてのことだという。その起源は、当時のフランス王とフランダース公爵の娘の結婚だった。

 この結婚を機に、フランダース地方の生姜を練り込んだジンジャー・ブレッドが作られるようになり、生姜だけではなく高級なスパイスやクルミ、ナッツなど加えた製品がこの地域での特産品になったと言われる。

 ヴォンデル・モーレン社の誕生は19世紀に入った1867年のことだった。

 創業者のピーターセン・ボルムス氏が、運河のほとりにある公園に面した風車を買い取り、そこでジンジャー・ブレッドの製造を始めたことによる。

「Vondel」とはオランダ語で公園を意味し、「Molen」は風車や水車のことをいう。ヴォンデル・モーレンは、フランダース地方の風景そのものを社名に採ったと言えよう。

 創業から今年で158年。数多くのジンジャー・ブレッドメーカーがあった中で、同社が成長を続け同製品でベルギー最大規模にまで発展した秘訣は、「品質への飽くなき追求と家族的経営」だとゲントCEOは話す。

 創業時の逸話として次のような記録がある。

 従業員には会社の側に家を与えて住まわせ、必ずウォールナットの木を必ず1本植えさせたそうだ。その木の実、つまり「くるみ」を収穫して加工し、ジンジャー・ブレッドに添加する材料とした。

 ジンジャー・ブレッドの材料を従業員が皆で丹精込めて作る。そから生まれる一体感。そして、誰が作ったのかすぐ分かるので品質へのこだわりは自ずと強くなる。

 そうした社風は現代にも生きている。SDGsにも先駆的に取り組み、毎年のように表彰されている。