土地ごとの気候風土や食材、先人の知恵によって生まれる料理は、無条件でリスペクトする派だ。

が、ときに料理名はそれなりにカオス。例えば、イタリア。

暗殺者のパスタ(Spaghetti all'Assassina)
諸説あるが、「トマトソースの様子が殺人現場のよう」、「殺人的に旨い」、「死なされそうに唐辛子がきいている」など、食べ手へのホスピタリティ欠如。

絶望のパスタ(Pasta di disperato)
日本でもおなじみの、ペペロンチーノ。貧しくて具材が入れられないことに絶望したのが発祥との説があり、自己肯定感の著しい欠如。

サルティンボッカ(saltimboccaもしくは saltinbocca)
“口の中に飛び込む”の意味。ダイレクト過ぎて情緒に欠けるうえ、使用素材の情報量欠如。日本で言う「ままかり」的発想か。

今回紹介するシチリアの郷土料理「ベッカフィーコ」もしかり。Beccare=ついばむ、Fico=イチジクの名の通りイチジクを好む野鳥の名らしいが、イワシで具材を巻いて焼き上げた料理を指す。もとはベッカフィーコに詰め物をして焼いたが、安価なイワシで代用したとか、詰め物をしたイワシがその鳥の腹のふっくら感に似ていたとかの説がある。調べてみたら、スズメ以上に地味な茶系統の鳥であったが、割とかわいい。

すでに相当話がこじれているため、もっとややこしくしたい。そこでレシピ公開を依頼したのは、イタリア料理店ではなく下北沢の“ユーラシア料理店”(範囲の広さが桁違い)。店主である小師直樹さんが独特の経歴を生かし、各国料理にスパイスをプラスして、ナチュラルワインとともに供している。一見難しいように見えて、スパイスを使うと華やかさや味の軸が作れるため、料理ビギナーにとってもヒントが満載だ。

また、スパイス料理は、個性的なナチュラルワインとも相性抜群。店主セレクトを紹介しているので、こちらも要チェック。

“SPICE UP YOUR WINE LIFE!!!”

ベッカフィーコ
イワシのスパイスポテト巻のグリル/フェンネル

材料【3~4人分】

イワシ(開いたもの)…8尾
じゃがいも(皮を剥いて1㎝角に切る)…250g
フェンネル(葉の部分・5㎜幅に切る)…7g
フェンネル(茎の部分・粗みじんに切る)…7g
オレンジ…1~1.5個
※フレッシュオレンジジュースで代用可。その場合は0.5個分を3~4㎜厚さの半月切りにする。
フェンネルシード(ミルでひく。パウダーでも可)…小さじ1/4

マリネ液
オリーブオイル…50cc
オレンジ果汁(100%のオレンジジュースでも可)…100cc
フェンネルシード(パウダーもしくはミルでひく)…4g
塩…2g

オリーブオイル…40cc
ブラウンマスターシード…小さじ1
ターメリック…小さじ1/2
塩…小さじ1/2弱(2.5g)

パン粉、チリパウダーまたは一味唐辛子、イタリアンパセリ…各適量

1.マリネ液の材料を混ぜてイワシを漬け、ラップをして冷蔵庫で2時間ほど置く。果汁を搾った後の皮も薄切りにして一緒に漬け込む。

2.フライパンにオリーブオイル40ccとブラウンマスターシードを入れ、弱火にかける。オイルが泡立ち、パチパチと音がしてきたらターメリックを加えて全体を混ぜる。

焦げやすくなるため、必ずオイルとブラウンマスターシードを入れてから火にかける

3.ジャガイモを加えて塩小さじ1/2弱(全体の1%目安)を入れ、炒め合わせて水250ccを注ぎ、蓋をして弱火で12分加熱する。

写真はレシピの倍量で調理

4.ジャガイモに竹串がすっと通る柔らかさになったらマッシャーで潰し、熱いうちに刻んだフェンネルの葉と茎を入れてよく混ぜる。 

香り高く酒が進む味わいなので、多めに作ってポテサラとしても

5.4の粗熱を取り、1でマリネしたイワシにのせて頭側から巻き、楊枝や串で巻き終わりを尾側から留める。

ポテトの量は1尾あたり25~30g
巻き終わりの尾が、小鳥のようでかわいくもある

5.4に塩(分量外)一尾あたりひとつまみほどを振り、フェンネル(ミルでひいたもの)とパン粉を振りかけ、オリーブオイル(分量外)を回しかける。スライスしたオレンジとともにクッキングシートにのせ、余熱したオーブンに入れて220度で9分ほど焼く。

6.焼きあがったら器に盛ってチリペッパーまたは一味唐辛子を振り、イタリアンパセリを添える。 

店主セレクトのおすすめワイン

ジェローム・アルヌー
ニュアンス
(右)

フランス・ジュラ地方。シェリーのような酸化熟成を醸造に取り入れており、ナッツや紹興酒を思わせる複雑で奥深い香りを持つ。個性的な1本だが、スパイスが重奏する料理に合わせると、その実力を存分に発揮してくれる。

ドメーヌ ペパン
ペパン オランジュ
(左)

フランス・アルザス地方。ゲヴュルツ・トラミネールとピノ・グリを果皮ごと醸したオレンジワイン。ほのかなアプリコットの香りに、ゲヴュルツ・トラミネール由来の白コショウのニュアンス。果皮と種のタンニンが、青魚の香りとマッチする。

教えてくれたのは

小師直樹さん
カリフォルニア料理店勤務やタイ料理シェフ、地中海料理店のソムリエを経て、2022年下北沢に「ベルプリ」をオープン。自身の経験を生かした料理と多彩なスパイスからなる“ユーラシア料理”とナチュラルワインを提供する。