酒のみが大好きな珍味、グロ可愛くてキモ旨い「ホヤ」について図鑑(子供向け)で調べてみた。

【ホヤ】体にじくを持つ無脊椎動物。子どものうちは「脊索」という細長いじくのある、尾を持ちます。わたしたち人間では、脊索の周りに背骨ができますが、ホヤの仲間にはできません。体を覆う皮(被のう)には、植物と同じせんい(セルロース)がふくまれています。
(小学館『小学館の図鑑NEO 水の生物』)

その奇怪な容姿から「海のパイナップル」とも呼ばれるホヤ。頭頂部(頭と胴体の区別が難しいが)に持つ突起は、取水口と排水口。プランクトンを含んだ海水を取り込み、不要なものを排出し、海底で静かに暮らす。

殻(正確には被のう)があるため貝類かと思いきや、脳神経や心臓、消化器官を持ち、哺乳類や鳥類などの脊椎動物の原点となる原索動物に類する。植物でもなく、れっきとした動物なのだ。幼体はおたまじゃくしのような容姿で自由に動き回り、成体になると根を生やして海底の岩などに定着して沈黙を決め込む。人間に最も近い無脊椎動物と考えられているが、雄・雌の区別はない。

珍味界のスリルとサスペンス。
ホヤよ、いったい君は誰なんだ?

その味わいは甘み・塩味・苦み・酸味・うま味の五味を持つとされており、食材としてとびぬけて優秀。その割に構造が極端に単純なので、魚を捌くよりはるかに扱いが簡単で、価格は手頃。高等動物であることを武骨な見た目でごまかしているつもりなのか、いちいち不可解で興趣が尽きない。

そこで今回、このミステリアス生物にフィーチャー。「初ガツオを粋にする薬味」を教えてくれた「鮨処 順 銀座店」板長の高野仁志さんに再度ご登場を依頼し、ホヤの塩辛を習ってきた。

陽キャではなく、相当なこじらせ系。ほの暗い色気を持ち、上品さと磯の野趣が絶妙に入り混じるカオスな美味がホヤの魅力。

こんなに粋な肴が拍子抜けするほど簡単に作れてしまう。そんなホヤ沼へ、ようこそ!

ホヤの塩辛

下処理方法

1.ホヤの殻(被のう)を外す。根元部分を切り落とし、縦に包丁を入れて半分に切る。

2.身の部分を取り出し、内臓を取り除く。特に黒い部分は残らないように注意する。

下処理完成の目安。ホヤのクセや香りが苦手なら、10%程度の塩水で水洗いしても可

作り方

家庭用「簡易版」

材料【1~2人分】
ホヤ(下処理したもの1個分)…48g
塩…5g
※撮影時に使用したものが実測で48g。塩分10%強を目安に適宜調整してください。

1.ボウルにホヤを入れ、塩を加えて全体に馴染ませる。ラップをして冷蔵庫で1時間ほどおく。

2.1を取り出し、食べやすく5㎜厚さほどに切り、器に盛りつける。

蛇腹きゅうりの作り方は後述

店で提供している「プロ仕様」

材料【1~2人分】
ホヤ(下処理したもの1個分)…55g
塩…6g
ホヤ水・かつお出汁…各同量
※撮影時に使用したものが実測で55g。こちらも塩分10%強を目安に適宜調整してください。

1.被のうを外す工程は前述と同様。こちらは、被のうの内側にある海水を含んだ「ホヤ水」を使用するため、ボウル内などで作業を行い、取り出したホヤ水を目の細かいざるで濾しておく。

2.食べやすく5㎜幅ほどに切ったホヤに塩を加えてよく馴染ませ、ラップをして1時間ほど冷蔵庫で置く。

 3.1でとっておいたホヤ水に同量のかつおだしを加え、2とよく和えて器に盛りつける。

常連に人気の肴。店舗では作り置きせずに、予約時に要望を聞いて用意する

※煮沸消毒した瓶に入れ、冷蔵庫保管で2日以内に食べきってください

“番外編” 板長Tips

#1
下処理して塩をなじませたホヤは、冷凍保存可能。小分けしてジップ付き容器でパックすれば、2週間ほど保存できる。自然解凍でOK。

 #2蛇腹きゅうりの作り方
1.ヘタを落としたきゅうり1/3本に切り離さないよう2㎜幅の切れ込みを入れ、裏面に返して同様に切り込みを入れる。

切れてしまうのが心配なら、割りばしや菜箸を2本並べた間にきゅうりを置いて作業する

2.3%の塩水に1を15分漬け、取り出して水気を拭きとり、1㎝幅に切ってホヤに添える。

教えてくれたのは

高野仁志さん(本企画、二度目の登場)

父方に2人、母方に1人寿司職人がいる家系に生まれ、小学校2年生でその道を志す。高校卒業後、住み込みで「鮨処 順」に入社。26歳で店を任されプレッシャーを感じていたところ、直後にバブル崩壊。以降、向き合ったお客を満足させるために技術を磨き続け、日本料理だけでなく洋食も食べ歩きを欠かさず、アイデアを反映する職人歴42年にして進化し続けるエンターテイナー。