目指すべきは『中ふっくら、外シャキッとアルデンテ』 

ひとクセのある姑役を筆頭に、昭和の名脇役として知られ、生涯で350以上の映画やドラマに出演した女優、沢村貞子氏。多忙な中で家庭生活を大事にし、季節感あふれる丁寧な手料理を約26年間、36冊に渡り記録したノートをもとにしたエッセイ『わたしの献立日記』は名著として読み継がれる。

明治生まれの彼女の軸は、母親からのお仕込み。母親が炊いたお米は一粒一粒が立ち、おひつに移している横に座り、鍋肌のおこげのおむすびをねだったという回想は、香り立つほど鮮やかに食欲を刺激してくれる。

「はじめチョロチョロなかパッパ、赤子泣いても蓋とるな」と定義された米炊きの方法。だが、これは釜で炊いていた時代の話。精米技術が進歩し、続々と新品種が誕生する今、現代式にアップデートする必要があるのではないか?

そんな疑問に答えてくれたのは、明治18年に創業した老舗米店の五代目、小林健志さん。聞いてみれば、良かれと思って行っていた工程が実はNGだったりと、意外性たっぷりの展開に。小林さんが推奨するのは、「中はふっくら、外シャキッとアルデンテ」の炊きあがり。今回は、それを実現するための米研ぎや炊き方のほか、研ぎ状態の異なる米の炊飯比較&食味検証もあわせて紹介する。

「働いている人がみんな幸せになるための芝居」を目指し新劇女優となるも、左翼活動とみなされ2度の逮捕と投獄を経験。さらに2度の離婚の後、妻子ある新聞記者と駆け落ち同然で所帯を持つなど、波乱万丈の沢村貞子氏。夫の死後発見された原稿にあったのは、次の言葉だったという。

「こんな楽しい老後があるとは思わなかった。やさしくて頭のいいてい子(本名)のおかげだ。僕は幸せだった」。

「何にもできなかった。でも一人だけ幸せにできたわけよね。閻魔さんに言わなきゃ」と彼女は涙を浮かべてそっと振り返る。

「我が生涯に一片の悔い無し」

きっとこの人なら堂々と言えるだろう。きっと、日々の暮らしを丁寧に、清らかに整える努力を当たり前のように継続していたのだろう。

さすがにそんな覚悟まではできないが、まずは食卓を整えるため、米研ぎ&炊きの技を手に入れてみてはいかがだろうか。少なくとも自分一人、さらに家族だって幸せにできる。それはまさに、一生モノの貴重な財産だ。

土鍋で炊く至高の銀シャリ

※撮影では、「つや姫」を使用。

各検証に使用したもの

米…2合
水…400cc

作り方

1.米を研ぐ。時間ロスを防ぐため、ボウルとザルを重ね、あらかじめ水を注いでから米を加える。いったん軽く混ぜてぬかを多く含む最初の水を切り、指を茶せんのように広げて全体を大きく混ぜる。米を強く掴んでボウル側面にこすりつけるのではなく、自然な力で米同士をぶつけて磨くイメージ。水を注いで流し、同様に2~3回研ぐ。
手早く、3分30秒以内に完遂することを推奨

研ぎの工程で最も重要なのは、米に傷をつけないこと。金属よりも、プラスチックのザルやボウルが適している

2.1の水を軽く切り、土鍋に移して分量の水を加え、50分浸水する。この工程で水を吸った米は、透明感がなくなり、写真のように白くなる。

気温が低い冬場は、浸水時間を60分に延長

3.2の土鍋をコンロに移し、強火にかける。鍋底の釉薬がない部分全体に火が当たる加減を維持する。 

一気に加熱して圧力をかけるのがポイント

4.十分に沸騰し、内部からぐつぐつ音がし、おねば(でんぷんの水溶液)が縁に湧き上がってきたら火を止め、15分ほど蒸らす。 

冬場なら、バスタオルで土鍋全体を包んで蒸らすのがおすすめ

5.15分経ったら10秒ほど強火にかける。おこげを多く作りたい場合は、パチパチと小さな音がするまで強火にかける時間を延ばす。蓋を開け、鍋の底から上にしゃもじで混ぜる。米を持ち上げ、空気に触れさせながらハラハラとやわらかく落とす感覚。
実は、炊飯の仕上げとして欠かせないのが「混ぜる」工程。全体の水分量を均一にし、余分な水分を飛ばす効果があるため、食感が良くなる。米をつぶさないよう、薄手のしゃもじを使うのがベター。 

【検証実験】米の研ぎ具合で、味わいはどう違う?

「どれくらいまで研げばいいかわからない」という疑問に答えるため、今回は、①研ぎすぎ②ちょうどいい③まったく研がないの3パターンを同時に炊いて、どんな影響があるか食味検証を行い、「なぜ?」という理由も分析&解説する。

●炊飯すると、米にどんな変化が起きるのか?

米がもともと持っているでんぷん質(グルコースが結合した多糖類)は、適切な水分を与え、98℃以上で加熱することにより、ベータからアルファー化する。この過程ででんぷんが糖に変わり、甘みやうま味を感じられるようになる。

 ●研ぎ汁の色で比較

写真左から、研ぎすぎ(最後の研ぎ汁はほぼ無色透明)、前述の方法でちょうどよく研いだ(やや乳白色を帯びる)、まったく研がない(浸水終了時の水の色)。

① 研ぎすぎ
水分量が多く、べちゃっとした炊きあがり。

米を強く握ってボウル側面にこすりつけるように研いだ結果、表面に割れと傷が多くつき、断面からでんぷん水溶液が流出したため、水っぽく食感が損なわれた。②と比べると炊きあがりも米が立っておらず、寝ている。

② ちょうどよく研ぐ
シャキッとした適度な粒感に続き、噛むほどにふっくらと上品な甘みを感じる。

小林さんが飲食店のプロに相談されたときにも提案する「中ふっくら、外アルデンテ」の状態。研ぐ際に表面の傷や割れを最小限に抑えているため、内側には過不足なく水分が行きわたり、表面はシャキッとした心地よい噛み心地。

③ 全く研がない
米の風味より、ぬかの香りが前面に出る。

表面のぬかが残っているので、その香りが強く出る。また、吹きこぼれの量が多くなることから、炊飯器を使用しても故障の原因になりうる。

【意外と知らない】お米にまつわるNG行為4選!

1.長時間の水切り

しっかりザルで水を切るという方も多いはず。でも、研ぐ段階でも米は水を吸収し、体積が膨張していおり、長時間ザルで水切りを行うと表面にひびが入り始める。水切りはさっとでOK、3分以内が目安と覚えておこう。

2.シンク下での米の保存

ついやってしまうのが、シンク下の戸棚での保存。湿気は下に溜まりやすく、また米袋には小さな穴が開いているため、湿気を吸収してしまう。ぜひ、冷蔵庫もしくは足元ではない冷暗所に。タッパーの密閉性も十分ではないため、脱気できる保存容器を導入するのもおすすめだ。

3.浸水時に氷を入れる

浸水時の水温を下げるため、氷を入れるのがよいという説も。しかし、水と氷では体積が異なり、水加減が調整しにくくなる。さらに、氷の周辺しか温度が下がらないので、どうしてもというときは、冷やした水か氷水の氷を取り除いたものを使用して。

4.蒸らしたままの長時間放置

「ほぐす」作業は、単に混ぜる、茶碗に盛るの付随ではなく、炊飯の仕上げとなる重要な工程。なべ底から上部へ混ぜ、空気に触れさせれば余分な水分を放出したり、自重で米がつぶれるのを防ぐことができる。一度軽くほぐし、茶碗に盛る際もほぐしながらを心掛けると、食感もアップ。

教えてくれたのは

吉田屋五代目 小林健志さん

「五ツ星お米マイスター」、「東京米スター匠」として、多くの飲食店からの相談役やメディア出演を通し、米食の価値やおいしさアップのノウハウを伝える“熱血派”伝道師。

「実は、米研ぎは技術。でも決して難しいものではなく、ポイントさえ抑えて感覚を掴めば、ご家庭でももっと美味しいご飯が食べられるようになります。修得したら一生モノ。ぜひチャレンジしてみてください!」