今年5月に開催された「G7広島サミット」。首脳陣に日本の伝統文化や開催地の名産などを体験してもらうのも慣例だが、意外なほど「広島お好み焼」がフィーチャーされていたことに驚いた読者も多いのでは?

配偶者が参加する昼食会に供されるばかりか、イギリスのスナク首相が鉄板に向かって広島お好み焼作りにチャレンジしている様子を駐日英国大使館の公式Twitterが公開。

「すっかり胃袋を掴まれた」という人のために、今回はお好み焼カルチャーの牽引者かつ本丸である「オタフクソース」にレシピの伝授を依頼。せっかくなので、粉もんを含む、その歴史も織り交ぜて紹介する。

【粉もんの発祥は?】

粉もんの発祥は古代に遡る。中国では、すでに新石器時代に小麦粉を水で溶いたものを焼いて具材を包む煎餅(せんびん)という料理が存在し、遺跡から調理器具が発見されているという。

遣唐使として長安に渡った奈良時代の学者、吉備真備は、粉もんのすばらしさを伝えるべく、自ら煎餅を焼いて学生に振舞った。現時点で、これが粉もんの伝来と考えられる。

残念ながらこの時代に定着することはなかったが、次に登場するのが戦国から安土桃山時代の茶人、千利休だ。彼は、うどん粉を水と酒で練った生地を焼き、味噌を塗って丸めた「ふの焼き」を茶菓子として提供。これが、今日のお好み焼の原型。

日本における粉もんの発展は、とんでもなくアカデミックな人々が主導していたのだ。

【一銭洋食とは?】

戦前、駄菓子屋の店先に登場したのがもんじゃ焼き。これを持ち帰り可能にし、ネギやかつおぶし、ソースをプラスしたものが「どんどん焼き」として人気に。

子供達でも安く買える安旨代表格の「一銭洋食」は戦後、大人向けにほんの少しの肉を加えたりして、庶民のお腹を満たす料理として広まっていく。

【広島お好み焼誕生の背景とは?】

1945年8月6日、広島の中心地に原子爆弾が投下された。市街地は一瞬にして焦土と化し、市民は今日を生き延びるので精いっぱい。

当時の広島は鉄を扱う工場が多く、鉄板は比較的手に入りやすい。さらに小麦粉は、アメリカ軍から支給があった。そこで一銭洋食をベースに誕生したのが、「広島お好み焼」だ。

ちなみに、現在も広島のお好み焼店に「〇〇ちゃん」という店名が多いのは、戦争で夫を失った未亡人が自らの名前で看板を出したり、生き別れた親族に居場所を伝えやすくしていた名残と言われる。

すべてを失った絶望感は、計り知れない。供する側も、食べる側も生きるために必死。戦後日本の復興を担う庶民の生活と気力を支えた、元祖のストリート&ソウル、いや“ソウルフル”フードが「広島お好み焼」なのだ。
それが世界の舞台に立ったとなれば、何とも誇らしいではないか。

“From HIROSHIMA with PRIDE!!!”

広島お好み焼

※関西が具材と生地の混ぜ焼きに対し、生地や具材を重ねて焼き上げるのが特徴。

材料【約2人分】


薄力粉…80g
水…120cc(薄力粉の1.5倍)
みりん…小さじ1/2

キャベツ…300g
焼きそば麺…2玉
卵…2個
もやし(細めのもの)…60g
豚バラ肉…80g(6枚)
青ネギ(2~3㎜厚さの小口切り)…10g
天かす…20g
かつおぶし…適量(目安2g)
とろろ昆布…適量(目安6g)

焼そばソース…適量
お好みソース…適量
青のり…適量

作り方

1.生地を作る。ボウルにAを入れ、滑らかになるまで泡立て器で混ぜ、ラップをして冷蔵庫で30分ほど寝かせる。

2.キャベツを千切りにする。芯の部分を切り落とし、2~3㎜幅に切る。繊維を断ち切って食感をよくするため、中心の白くやや固い部分に対して垂直に包丁を入れる。ボウルに移して葉の部位が均一になるよう混ぜ、軽く水を振って水分を補う。

3.ホットプレートを160~180℃に熱し、1の生地40ccを薄く直径20㎝ほどに広げて焼く。

4.3のうえに、かつおぶし、キャベツ、とろろ昆布、天かす、青ネギ、もやし、豚バラ肉の順でそれぞれの半量を重ねる。

5.上からつなぎ用に1の生地を10gほど垂らす。ホットプレートの温度を200~230℃にし、ヘラを差し込んで一番下の生地が固まり、動かせるようになったらひっくり返して豚バラ肉を焼き、しっかり焼き目をつけて温度を160~180℃に下げる。

6.空いているスペースに焼きそば麺を入れ、広げて全体を焼く。火が入ったら焼そばソース10gを加えて全体に馴染ませる。ソースのスパイス感が引き立つよう、しっかり焼き付けるのがポイント。5の上部の生地を持ち上げ、キャベツの白い部分に十分火が入り、半透明になったことを確認したら、焼きそばを円形に形作り、5をのせる。素材同士が密着するよう、ヘラで縁を押さえ、ドーム状に整える。

7.卵一個をホットプレートに割入れてヘラでくずして円形に焼き、半熟のうちに6を重ねる。

8.ヘラで軽く押さえ、卵を焼き、もう一度ひっくり返して卵の面を上にし、お好みソース約50gをかけ、青のりを振る。

担当編集者、木村千夏がセレクトした、おすすめワイン!

広島お好み焼は、とろろ昆布やかつおぶしのほか、イカ天が入ることも。また、『広島限定お好みソース』は瀬戸内の藻塩を使用しているそう。そこでアプローチすべきはミネラルやヨードなど「海洋性」のうま味と予測し、海っぽい系ワインを2本用意した。

エシュ・エ・バニエ
コトー・デクサン・プロヴァンス・ロゼ・レ・シトロニエール
(右)

恐るべき刺客、降臨。広島お好み焼の具材や調理法によって引き出された風味のすべてを追走する機能を搭載しているのではというほどの大活躍を見せたのが、こちらの仏・プロヴァンス地方のロゼだ。

うま味の強いソースと戦わずも屈せず、軽やかな果実のニュアンスが蒸し焼きにしたキャベツの甘みと同調。しっかりしたアルコールが後味をすっきりさせるものの、風味を切らずにもう一口を誘うペアリング輪廻を発動する。双方の味わいの要素に捨て駒なしのバランスは、前世他人ではなかったはず。このワインを名誉広島市民に推挙したい。

ブドウ品種:グルナッシュ、サンソー
問い合わせ:ジェロボーム
価格:3,080円

タスカ・ダルメリータ
レガレアーリ・ネロ・ダーヴォラ
(左)

イタリア・シチリア島の土着品種、ネロ・ダーヴォラのワイン。南の赤というと、厚ぼったくて飲み疲れるものも多少はあるが、こちらは凛として涼やか。さらに、熟した黒系の果実味は、ソースやしょうゆと驚きの親和性を持つ。

少し冷やして味わいの輪郭や海っぽさを際立たせれば、広島お好み焼の海洋感に、やや温度を上げてボリューム感を引き出すと、ソースの風味にピタリと心地よくはまるという、二段階のサービス精神。

味わいの底にあるミネラルやヨードのニュアンスがマグロやアジなどの青魚と好相性なため、ソースたっぷりのアジフライやマグロの漬け、串カツなどにも◎!

ブドウ品種:ネロ・ダーヴォラ
問い合わせ:アサヒビール
参考小売価格:2,200円(税別)


今回使用したのは、こちらの焼そばソースとお好みソース(各475円)。さらに、手軽に試せる生地の粉と削り粉・昆布粉ミックスや天かす、青のりが入った「広島お好み焼こだわりセット」(335円)も販売するほか、広島限定お好みソースも(451円)。

教えてくれたのは

お好み焼士(コーディネーター)の新井哲也さん(写真右)と長谷川寛美さん

「生地と具材が何層にもなっているので、ひっくり返すのが難しそうと思う方も多いはず。多少散らばっても後で形を整えればリカバリーできるので、躊躇せず思い切って返してOKです!」(新井さん)

「ホットプレートを出すのが手間だと思う時は、フライパン二つ体制でも作れます。おいしさの秘訣は、生地をフタにして、しっかりキャベツなどの野菜を蒸し焼きにし、甘みを引き出すことです」(長谷川さん)