─Qu’est-ce que tu manges ?
「何にする?」
─ Toi, je sais déjà que tu vas prendre une andouillette…… Je peux m’offrir une petite folie en commandant un homard froid à la mayonnaise?
「あなたがアンドゥイエットを食べるのはわかっているわ。わたしは、ちょっと高いけどオマール・マヨネーズを頼んでもいいかしら?」
これは、小説『メグレ警視』(後に出世して役職は変わる)シリーズ内で、レストランのメニューを見ながら彼が妻と交わした会話だ。本作は100篇を超え、映像化もされているためご存じの読者も多いはず。
夫人は料理自慢で、揃って美食家。ロワールに別荘を持ち、推理や事件解決に奔走するだけでなく、人生を存分に謳歌しているあたりがフランス人的。特に、食事シーンが罪なほどに魅力的なのだ。
何しろフランスでは、海老とマヨが贅沢らしい。さすがにオマールは高級なため日常ver.に補正を行うとして、構成要素を考えれば「エビマヨ」という選択肢もありえる。しっかり丁寧な下処理を行えば、海老は大概おいしくなる。マヨは手間こそかかるけれど、材料は身近なもので足りる。今回は、原価率を抑えるかわりにひと手間ふた手間かけ、普段のごはんをメグレ夫妻の食卓に近づけようという算段だ。
さらにエビマヨって中国料理でありながら、もし「カリフォルニアのワイナリー併設レストラン専属シェフが考案した」と言われれば、さもありなんと思ってしまいそうなリゾート感まで備えており、合わせるワインの自由度も高く遊び甲斐がある。
そこで指南をお願いしたのが、東京ミッドタウン日比谷に店舗を構える中国料理店「礼華 四君子草」。勤勉&謙虚な料理長自ら、惜しげもなく公開してくれた貴重なレシピで人生最高のエビマヨを完成させ、メグレ警視以上の充実した食事タイムを満喫したい。
海老のマヨネーズ和え
※店舗では大海老を使用した「大海老とフレッシュフルーツのマヨネーズ炒め」としてオンメニュー。
※本レシピでは、ソースにドライジンを使用しています。アルコールアレルギーや妊娠中の方、お子様はお控えください。
材料【2~3人分】
ホワイト海老(殻をむく)…200g※ブラックタイガーでも可
塩、片栗粉(海老の下処理用)…各大さじ2
卵白(泡立てる)…1個分
溶き卵…1個分
薄力粉…大さじ3
酒…小さじ1
片栗粉…小さじ1
塩…小さじ1/4
白コショウ…適量
揚げ油
A
卵黄…2個分
サラダ油…150g
穀物酢…大さじ1
レモン汁…小さじ1
塩…5g
B
トマトケチャップ…16g
コンデンスミルク…14g
エバミルク(無糖練乳)…12g
ドライジン…5g
ルビーグレープフルーツ(皮をむいてくし形に切り、薄皮と種を除く)…1/2個分
※パパイヤやマンゴーでも可
ベビーリーフ、無塩ローストカシューナッツ(粗く砕いておく)…各適量
作り方
1. 海老の下処理をする。海老は背の方から切り離さない程度に開き、背ワタをとってボウルに入れ、ぬめりを取るための塩と汚れを取る片栗粉を入れて、しっかりともみ込む。
2. 流水で水が澄むまでよく洗ってざるにあげ、キッチンペーパーなどで水気をしっかりと取る。
3. 2をボウルに移し、塩と白コショウを振り、粘り気が出るまで混ぜる。さらに軽く泡立てた卵白を加えてもみ込み、各過程で全体を均一に馴染ませながら片栗粉、溶き卵、薄力粉の順で加える。
4. マヨネーズを作る。Aの材料のサラダ油以外をあわせて泡立て器で混ぜる。少量ずつサラダ油を注ぎ、なめらかなクリーム状になるまで、さらにしっかりと混ぜる。
※市販のマヨネーズでも可。名店の味に近づけたいマニアックな方はお試しください。
5. ソースを作る。4のマヨネーズ90gを取り分け、Bを加えて混ぜる。
6. 鍋に揚げ油注ぎ、180度に熱する。3の衣の部分を菜箸で落とし、すぐに浮き上がってくるくらいが180度の目安。海老を入れたら火を強め、1分弱ほど強火で一気に揚げる。
7. 6を取り出して油を切り、5を加えて和え、ベビーリーフとともに器に盛り、ルビーグレープフルーツ、カシューナッツを散らす。
担当編集者、木村千夏がセレクトした、おすすめワイン!
アルジオラス
イセリス・ビアンコ(右)
どこまでも高く澄んだ空に、紺碧の海。セレブ御用達の高級リゾート地、イタリア・サルデーニャ島で造られたワイン。
これ、温度によって、かなり香りや味わいの印象が変わるカメレオン役者的な1本だ。しっかりしたミネラルと酸があるので、冷やせば端正かつエレガント。ゆっくりグラスを重ね、やや温度が上がると果実の芳醇さや甘やかさが出てくるので、リゾート気分を盛り上げてくれる。
とはいえ、アフターに伸びる柑橘の皮のような心地よい苦みが、自堕落側に転ばない、転ばせない絶妙なバランス。
ブドウ品種:ナスコ主体、ほかヴェルメンティーノ
問い合わせ:スリーボンド貿易(https://www.threebond-trading.co.jp/)
希望小売価格:3,700円
WX
ブレッド&バター ロゼ(左)
本件、アジア系や海老料理ならロゼが無難、という選考理由ではない。考慮したのは、互いのキャラを一致させること。
エビマヨもこのワインも、気難しさや難解さがない“陽キャ”。カリフォルニアなら、ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨンもお家芸なのに、グルナッシュ(南仏系)、バルベーラ(イタリア系)に、フルーティなミュスカという、ややトリッキーな布陣としたのは、ワイナリーに自信があったのだろう。
フレンドリーなのに単調ではないという点で、エビマヨと仲良く並走したり、風味を広げてくれたりと大活躍だ。
ブドウ品種:グルナッシュ、バルベーラ、ミュスカ
問い合わせ:GRAPE OFF(https://www.grapeoff.jp/)
オンラインショップで購入可能:【BiSTRO ViNO CELLARS】(https://www.bistrovinocellars.jp/)
価格:3,800円(税別)
教えてくれたのは
木村旭さん
伝統的な上海料理をベースに、洗練されたヌーヴェルシノワを供する中国料理店「礼華 四君子草」の料理長。栄養薬膳師の資格を持ち、ヴィーガンやベジタリアンメニューにまで対応。技術の高さや探究心はもちろんのこと、厨房内だけでなくサービスに至るまで総合的にお客を楽しませることに心を砕く繊細な配慮は、その人柄ゆえ。多分、いや間違いなく、休日でも料理のことを考えていそうなホスピタリティ溢れる求道者。