この料理を知ったのは、1950年代にフランスに渡り、シャンソン歌手として活躍するほか、料理に関する味わい深い数々のエッセイで知られる石井好子氏の著書『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』だった。

「クロックムッシュ」とは、1900年代初頭にオペラ座近くのカフェで誕生したホットサンドで、パンにベシャメルソースとチーズ、ハムを挟んで焼き上げたもの。めちゃくちゃ熱いことが想像できたうえに、石井氏が舞台化粧のままレヴュの合間に買いに行ったというエピソードから、てっきり「底冷えする巴里のお夜食」的なたべものかと思っていたが、実は朝食からランチにいただくのが一般的らしい。

本場、巴里を超えるクロックムッシュを自宅で作って、ワインと合わせてみたい! そこでレクチャーをお願いしたのが、今年12月にグランド ハイアット 東京 オールデイ ダイニング「フレンチ キッチン」料理長に就任した、有本豊さん。

コツは、焦らず丁寧に(ワイン片手にを推奨)。ふつふつと熱く溶け、香ばしいチーズの香りが広がった瞬間、その労力は報われてなお余りあること間違いなし。

また、担当編集、木村チョイスのワインも紹介しているので、こちらも参考にしてみてほしい。

しかし、小麦粉とバター、牛乳でここまでのごちそう感が実現するとは圧巻。フランスの粉もん(+乳製品)&ソース文化の奥深さに改めて驚かされるはずだ。

クロックムッシュ 

材料【2人分】

※工程写真は、6~7人分で調理したもの
食パン(6枚切り)…4枚
グリュイエルチーズ(スライス)…4枚
グリュイエルチーズ(シュレッド)…140g
ハム(豚モモ肉)…4枚

Aベシャメルソース
牛乳(弱火にかけ40℃に温める)…200cc
無塩バター…20g
薄力粉…20g
塩・コショウ・ナツメグ…各一つまみ

B付け合わせ
ベビーリーフ…適量
ドレッシング(お好みのもの)…適量
※ボウルで和えておく

作り方

1.ベシャメルソースを作る。鍋を弱火にかけて無塩バターを入れて溶かし、薄力粉を加えてへらで混ぜながら、粉っぽさがなくなってまとまるまで炒め合わせる。

(1~3のソース作りの工程は、じっくり焦がさずがポイント。弱火をキープして絶えず混ぜ続け、焦げそうになったらいったん火から外して調整する)

2.1が固形からクリーム状になってきたら牛乳の1/3の量を加え、手ごたえが軽く、さらっとした液状になるまで混ぜる。

3.2に牛乳を残りの継ぎ足しながら、再度滑らかな液状になるまで混ぜ、塩とコショウ、ナツメグを加える。

 4.食パンによく混ぜた3をまんべんなく塗り、ハムとスライスのグリュイエルチーズを重ねてもう1枚の食パンで挟む。その上部にもベシャメルソースを塗り広げてシュレッドチーズをたっぷりのせる。

 5.フライパンを熱し、無塩バター(分量外)を溶かして4の底の部分に軽く焼き色をつける。

6.200℃に余熱したオーブンに5を入れ、10~12分焼く。

7.焼きあがった6を食べやすくカットし、付け合わせのベビーリーフとともに皿に盛る。 

写真上は店のレシピ。下は、スーパーで購入できる全粒粉の食パンとスライスチーズを使用。一口サイズにカットすれば、ホームパーティの一品にも。

 担当編集者、木村千夏がセレクトした、おすすめワイン!

ジャン ペリエ エ フィス
クレマン ド サヴォワ
(右)

チーズの生産で有名なフランス・サヴォワ県のスパークリング。リンゴの蜜のような果実味が口中に広がり、フレッシュな酸が後味をキュッと引き締める。クロックムッシュのカリカリした食感にやわらかい泡の刺激。基本飲み手に読解力を求めない“陽キャ”だから、陽光が心地よい休日のブランチなどに心地よくフィットしてくれる。

ブドウ品種:ジャケール85%、シャルドネ15%
問い合わせ:稲葉(https://www.inaba-wine.co.jp/
希望小売価格:2,860円

シレーニ・エステート
レイト・ハーヴェスト・セミヨン 2020
(375ml)(左)

こんがり焼いたトーストにたっぷりのバターとハチミツを塗る感覚で行けば、合わないはずがない(甘じょっぱいの法則)。ほおずきのコンポートや洋ナシの香り。味わいの芯にみずみずしさがあり、後味が重くない甘口ワイン。すでに料理がカロリー爆弾気味なので、より背徳感を高めて夜食とする場合、これくらい甘美なワインが気分に合う。

ブドウ品種:セミヨン
問い合わせ:エノテカ(https://www.enoteca.co.jp/
価格:3,520円

教えてくれたのは

グランド ハイアット 東京 オールデイ ダイニング「フレンチ キッチン」料理長
有本豊さん

「市販のものでもいいけれど、ベシャメルソースさえ丁寧に手作りすれば、あとは簡単。ソースはほかの料理にも応用できるので、ぜひ一度チャレンジしてみてください」