ボジョレー・ヌーヴォーが終わると日本で一番ワインが飲まれる年末年始がやってくる。とはいえ、2022年は世界的な政治・経済情勢の不安定さでワイン市場はだいぶ混乱気味。そこに、いまだにスッキリしないパンデミックへの対応と円安が重なって、シャンパーニュやブルゴーニュの有名ワインはここ日本では欲しくても在庫がない、あるいは、ちょっと二の足を踏んでしまう価格、という状況になっている。

そこで!JBpress autographでは、そんな時代にも在庫があって「バリューフォーマネーな贅沢」というちょっと撞着めいた価値をもったワインをスパークリング4種、赤ワイン4種、提案したい。

まずは、祝祭感の強いスパークリングワインから

これぞシャンパーニュのスタンダード!
シャンパーニュ パルメ
ブリュット・レゼルヴ

https://www.champagne-palmer.fr/ja/
参考価格6,900円

まずはスパークリングワインの華、シャンパーニュから。昨年も紹介したのだけれど、今年、その存在感はより大きくなったように感じるのが「シャンパーニュ パルメ」の『ブリュット・レゼルヴ』。

スパークリングワインを造るなら、誰でも絶対造るといっていいスタンダード中のスタンダードにして超激戦カテゴリ「ブリュット」において、ワインの専門家たちがうなる一作だ。その最大の美点はシャンパーニュのスタンダードとして期待する要素を完璧に満たしてくれているところ。

専門家やワインファンが世に数多あるスパークリングワインのなかでも王者たるシャンパーニュにまず期待するのは、名ブランドの真っ白なワイシャツのような清潔感、正統性、質の高さ。しかし、昨今のシャンパーニュのスタンダードは、温暖化に起因する気候の不安定さ、カジュアル化・多様化する世情を受けてか、ややフリースタイル気味になっている。そんななかで『パルメ ブリュット・レゼルヴ』を飲むと「そう、これこそシャンパーニュ!」と快哉を叫びたくなる。

ヒミツは、シャンパーニュ地方でも北方のモンターニュ・ド・ランスに白ブドウ「シャルドネ」の畑を持ち、このシャルドネを主体としていること。伝統的には赤ブドウ「ピノ・ノワール」で有名な産地だけれど、気候変動激しい現在、このパルメの畑のシャルドネが絶好の条件にあることをワインが証明している。かつ、そもそもはこの土地のブドウ栽培家たちが、自らの畑の実力を世に問うべく興したシャンパーニュメゾンであるパルメは、ブドウ栽培の熟練度、土地への愛の深さで後塵を拝する気は一切ない。そういう矜持を、正統派スタイルでまとめ上げた豪速球のストレートだ。

異次元ギリギリを攻めるスーパー モダン シャンパーニュ
ルイ・ロデレール
ブリュット・ナチュール・ブラン・フィリップ・スタルク・ボックス 2015

https://www.enoteca.co.jp/item/detail/034491372
17,600円

『パルメ ブリュット・レゼルヴ』と真逆の発想ながら、最大のライバルなのではないか? と感じてしまうのが、ルイ・ロデレールの『コレクション』シリーズ。というのは、この『コレクション』というシリーズをもって、ルイ・ロデレールは、シャンパーニュの「ブリュット」とはいつ飲んでも安定して一定の品質、一定のスタイルでまとめ上げられた、その造り手のシャンパーニュ観を表現したもの、という常識を、半分くらい無視した。

毎年、性格の違うブドウを使いながらも常に理想とする一点へと結果を収束させる、という条件を解除することで、そのときどきのブドウの持ち味を表現した、よりよい作品が生み出せるのではないか?という発想なのだ。こういうことはもっと通向けなワインでやることなのだけれど、ルイ・ロデレールはこれをスタンダードに持ってきた。ロデレールファンならわかってくれる、という判断なのだろう。

そして、ここで紹介したい『ルイ・ロデレール ブリュット・ナチュール・ブラン・フィリップ・スタルク・ボックス 』は『コレクション』の発想をベースに、さらに限界ギリギリを攻めたシャンパーニュ。完璧にナチュラルに育てたブドウを、究極にナチュラルにワインにしたもの、と言ってしまってもいいような造りで、一歩間違えば「目をつぶってコーナリング」状態になりかねない。「ブドウもワイン造りも完璧」でないと大クラッシュだ。

この達人は、それで最速ラップを叩き出す。数値上はドザージュ0、マロラクティック発酵0と飲みにくそうなのだけれど、鋭利と言いたくなるほどの緊張感をもった液体から、口内から溢れ出しそうなほどにふくよかな温かみが広がっていく。特に現在、登場したばかりの2015年ヴィンテージは傑作だ。

シャンパーニュはこれより高価なものになると別次元の飲み物になってしまう。そういう意味では、まだギリギリ現世。買えるうちに買っておいたほうがいい。

ほっこり冬向け。ちょっと変わったフランチャコルタ
カステッロ・ボノミ
フランチャコルタ キュヴェ22 ブリュット NV

https://avico.jp/wine-cat/bonomi
希望小売価格 4,400円(税別)

イタリアを代表するラグジュアリースパークリングワイン「フランチャコルタ」はシャンパーニュを始めとする世のスパークリングワインと外観はそっくりでも中身は別物、という独特なワインだ。というのは一般的にスパークリングワインは一旦、何種類かワインを造って、これを原材料にブレンドをして完成させるから、原材料時点でワインが「仕上がっている」必要はあんまりない、はず。ところがフランチャコルタは、原材料時点でワインがかなり「仕上がっている」のではないだろうか。「良いものを組み合わせれば、良い」という実にわかりやすく真摯な職人的哲学をフランチャコルタ人は常識的に共有している、とおもえてならない。そしてそれゆえ、出来上がったワインも回りくどくないのではないだろうか。

また、フランチャコルタのスタイルにある程度の共通性があるのは、小さなワイン生産エリアだから、という理由も大いにあるとおもわれる。

そんななかで、こちらのフランチャコルタはちょっと雰囲気が違う。なぜなら、古代に氷河がごっそり削った痩せた土地、というのがフランチャコルタの土地の基本なのだけれど「カステッロ・ボノミ」のブドウ畑は山陰にあって、山が壁になって氷河の侵食を免れているのだ。結果、土壌は石灰の多い独特なもので、どちらかというとシャンパーニュとかブルゴーニュに似ている。また、豊かな日照がありながらも、山のお陰で夏は涼しく、冬は寒さがマイルド。こういう土壌・気候で職人気質なフランチャコルタ人がワインを造るとどうなるのか?という面白味がある。

『キュヴェ22』はカステッロ・ボノミが持つ22箇所の畑のシャルドネから造られている。温かみのある優しい味わいで、よく熟したグレープフルーツのような、やや甘みのある柑橘類をおもわせる酸味が魅力。難しくなく、懐深いので、家庭や友達との食事のお供にとてもオススメ。

アルコールがないのもいいじゃない。という時に
ピエール・シャヴァン
ピエール・ゼロ ロゼ・スパークリング

https://www.mottox.co.jp/catalog/food-drink-goods/615576
希望小売価格 1,400円(税抜)

パンデミックを機に人気急上昇中なのがノンアルコールワイン。厳密にはワインを造ってから脱アルコールをするので、低アルコールというのが正確なのだけれど、アルコール度数1%以下のワインだ。このカテゴリーにおいて10年以上の経験と圧倒的な支持を誇るのが、南仏のワイナリー「ピエール・シャヴァン」。創業者はシャンパーニュ生まれのマチルダ・ブラシャンという女性で、彼女の作品は、シャンパーニュの良さがよくわかっている絶妙な仕上げとともに、一般的なスパークリングワイン比でカロリーがおよそ70%も低いとか、保存料等が入っていないといった、モダンな価値でも愛されている。ちょっといいレストランやイマドキのカッコいいお店に行って、ノンアルコールワインを頼んだら、だいたい、ピエール・シャヴァンの作品が出てくる。

とはいえ、やっぱりアルコールがないと、重量感、ボリューム感に欠けるのは事実。その点、この『ピエール・ゼロ ロゼ・スパークリング』は、脱アルコールを施したシャルドネとメルローのワインに、さらにシャルドネのジュース加える、というピエール・シャヴァンのなかでもにぎやかな造りで、ワインとは似て非なる世界観を出すことに成功しているとおもう。

ピエール・シャヴァンのラインナップは、スパークリングからスティルまで、かなり豊富だから、アルコールNG派も、今日はアルコールを避けたい、という時も、まずはこの造り手から。