2月5日(水)サントリーは「ノンアルコール飲料戦略説明会」を開催。鳥井 信宏 代表取締役社長も登壇し、新しいタグライン「攻めのノンアルしちゃおっか。」を掲げ、ノンアルコール飲料が酒類文化を担う重要な存在であることを強調した。

サントリーの代表取締役社長 鳥井 信宏氏(右)とビール・RTD本部 ノンアル部長 福本匡志氏

ワインは悪なのか?

以前私は、ブルゴーニュのイランシーという村にいるティエリー・リシューさんというワインの造り手のもとを訪れたことがある。彼が造るワインにはブドウの収穫年、畑のわずかな差異に由来する強い個性があり、時に、この地域のワインの一般的な印象とは大きく異なる荒々しさが感じられるものもあった。一滴の液体の中に無数の唯一無二の個性。ティエリーさんの感受性が見つけ出し、丁寧に紡いだこの土地の自然とブドウと人の痕跡たちだ。年月とともにそれらがワインに馴染んでゆくと、探索し尽くせないほどのミクロコスモスとなる。息子たちにワイナリーをバトンタッチしている最中の大ベテランだったティエリーさんは、私にワインを試飲させながら、自分のワインについて、それはつまり彼自身の人生について、たくさんの話をしてくれたのだけれど、ティエリーさんのワインはティエリーさん以上に饒舌で、私はおもわず涙ぐんでしまった。

「ああ、通じたね。アルコールは社会的に断罪されがちだろ? こんな田舎でワインを造っていると、私は何をしているんだって、自問自答することがあるんだ。だけど私のワインは地球の反対側から来たあなたの感情を揺さぶった。ワインを造っていてよかったと心底おもうのはこんなときだ」

もしもワインの中に10数%存在するエチルアルコールの存在だけをもって、ティエリーさんの人生を断罪するなどという暴挙を社会が許すなら、私はそんな社会からは出ていきたい。

アルコール0.00%のお酒

サントリーが2月5日に開催したノンアルコール飲料戦略説明会において、同社の鳥井信宏代表取締役社長の話を聞いていて、私はティエリーさんのことを思い出した。鳥井氏は「私たちが大切にしている、お酒の価値」と題して「お酒は人間らしい。お酒は分かちあう。お酒は成熟させる。お酒は美味しくする。」という5つの価値を挙げた。そして、ノンアルコール飲料は、清涼飲料ではなく「アルコール0.00%のお酒」なのだ、と強調した。

サントリー「ノンアルコール飲料戦略説明会」配布資料より

「(ノンアルコール飲料は)お酒の代替として飲まれるケースもありますし、実際、お酒は体が受け付けないが、ノンアルコールで味は美味しくて、まさにお酒の雰囲気を楽しむという方も増えてきているという感覚が、私の肌感覚ではありますけれどもあります。(中略)繰り返しになりますけれど、ノンアルコールも含めてお酒の文化を絶やしてはならない。お酒を飲んで豊かな気分になるんだということが一番大事」

なんて建設的なのだろう。「出ていきたい」などと口走る私は幼稚この上ない。アルコールがダメだと言うのなら、アルコール0.00%のお酒をつくる、というのだから。いやすでにつくって、市場に数々のノンアルコール飲料を投入しているのだから、サントリーはそういうつもりなのだ、と鳥井氏はあらためて明言したのだ。

2025年1月、サントリーはこれまでビール本部、ワイン本部、スピリッツ本部に分かれて存在していたノンアル担当部門を統合した「ノンアル部」を新設。リーダーには「神泡サーバー」「ビアボール」を手掛け「サントリー生ビール」の開発責任者でもある 福本匡志氏が就任した。同時に約50億円を投じて、マーケティング活動を加速させる。

商品にも変化が訪れる。すでにノンアルコール飲料では広く普及している「オールフリー」は原料配分の見直しによってビールのような味わいを強化。パッケージデザインも若干ではあるけれど変更したものを4月上旬に発売する。

左の「オールフリー クリア<レモン&ライム>」と「同<ビターオレンジ>」は希望小売価格141円(税別)/ 350ml。右は新デザインの「オールフリー」と「同<ライムショット>」(オープン価格)

またこれと同時に「オールフリー<ライムショット>」にもデザイン変更が入る。加えて、オールフリーブランドからは、ビールテイストではないオールフリーとしてサワーテイストの「オールフリー クリア<レモン&ライム>」と「同<ビターオレンジ>」を4月22日に新発売。

そして、大きな括りでは脱アルコールウイスキーがベースの「のんある酒場」の「のんある酒場 レモンサワー ノンアルコール」「同 ハイボール ノンアルコール」を2月下旬に味のアップデートとパッケージ変更を施し、リニューアル発売。

「のんある酒場 レモンサワー ノンアルコール」(希望小売価格129円/350ml、173円/500ml いずれも税別)と「のんある酒場 ハイボール ノンアルコール」(158円(税別)/350ml)

同様に脱アルコールワインをベースとしている「ノンアルでワインの休日」には「 ノンアルでワインの休日<りんごの贅沢スパークリング>」が2月18日(火)から、「同<白 レモンの一搾り>」が4月30日(水)から、いずれも期間限定販売という形で加わる。

「ノンアルでワインの休日〈りんごの贅沢スパークリング〉」「ノンアルでワインの休日〈白 レモン一搾り〉」

もっと攻めちゃってください

ワイン業界にいる人間の端くれとして「ノンアルでワインの休日 プラス+赤」などは、香りも味わいも、公式にはオープン価格だけれど実勢価格で170円程度(350ml)という価格も考えるとかなりスゴいものだと私はおもっている。最大の欠点は言いたいことが多すぎるのか、パッケージデザインも名前も情報渋滞状態なこと。これはちゃんとお酒、ワインのひとつだと言ってよいとおもうので「サントリー 赤ワイン ALC.0.00%」くらいまで整理しちゃっていいのではないだろうか?

件の商品は写真の右から3本目

サントリーが今回打ち出したタグラインは「攻めのノンアルしちゃおっか。」お酒が飲めないときに仕方なく選ぶものじゃなく、飲みたい時に飲む飲み物だ、と言いたいわけだし、どーんとどうでしょう?

ちなみにサントリーの推計によると昨年は4500万ケースを超えるノンアルコール飲料が出荷され、市場は1055億円規模。これは2023年比で111%、2019年比で135%であり、このまま成長して2030年には1400億円規模のマーケットになるとサントリーは予想している。とはいえ、酒類の市場規模・約3.2兆円、飲料の市場規模・約5.3兆円、合計8.5兆円と比べると、わずか1%程度でしかない。福本氏は将来的には酒類・飲料市場の1割となる8000億円程度まで、ノンアルコール飲料市場を成長させたいと言う。

ぜひ、頑張ってほしい。そしていつの日か、アルコール 0.00%で、ワインの造り手の魂を感じるワインなんていうものに、私は出会ってみたい。