(写真:VTT Studio/Shutterstock.com)
  • なぜ、企業は「売上目標」にとらわれるのか。計画には目標が必要だが、いまや売上目標が多くの企業で成長を妨げる弊害となっている。
  • 売上目標は会社から与えられたもので、組織と従業員の思考能力を奪う。自己満足に陥りやすく、市場環境の変化への対応力も損なう。
  • 連載4回目はサントリー。価格競争が激しいなか、価格訴求型から生活提案型のマーケティングにどのように転換したか。

(*)本稿は『売上目標を捨てよう』(青嶋 稔、インターナショナル新書) の一部を抜粋・再編集したものです。

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 サントリーは、サントリーホールディングス傘下の酒類製造販売会社だ。ビール、ウイスキー、チューハイ、ジン、ワインなどの生産から、マーケティングおよび販売までを一貫して行っている。

 同社はかねてより、流通及び消費者の価格に関する感度の高まりを把握していたが、それに対応するだけでは業界全体の発展に繫がらないと考えていた。たとえよい商品を先行して出しても、すぐに類似製品が発売されて同質化競争に陥ってしまうからだ。

青嶋 稔(あおしま・みのる) 株式会社野村総合研究所フェロー。1988年、精密機器メーカー入社後、10年間の米国駐在などを経て2005年より野村総合研究所に参画。2012年同社初のパートナー(コンサルタントの最高位)に就任。2019年同社初のシニアパートナー、2021年4月より同社初のフェローに就任。米国公認会計士、中小企業診断士。近著に『リカーリング・シフト』(日本経済新聞出版)、『価値創造経営』(中央経済社)など。

 そこから脱するため、商品だけでなく生活提案も顧客に届ける必要があると考えた同社は、営業組織の在り方を大きく変革。消費者を主語にしたマーケティング・営業活動を行うことを決めた。

 まず2016年から、サントリー(当時の社名はサントリー酒類)にて改革プロジェクトを開始した。当初は8人でスタートしたという。主役である消費者に対して“適切な”タイミングで、“適切な”売り場で、“適切な”商品を、“適切な”価格で提供し、需要の活性化を行う方法の提案を行った。また、買い物をする消費者の気持ちや動きを理解し適時適切な仕掛けを行うショッパーマーケティングと呼ばれる手法を推進した。