カスタマージャーニーがマーケティングの切り札に(写真:A9 STUDIO/Shutterstock.com)
  • なぜ、企業は「売上目標」にとらわれるのか。計画には目標が必要だが、いまや売上目標が多くの企業で成長を妨げる弊害となっている。
  • 売上目標は会社から与えられたもので、組織と従業員の思考能力を奪う。自己満足に陥りやすく、市場環境の変化への対応力も損なう。
  • 連載2回目は、複合機などオフィスソリューションを手掛けるリコージャパンを取り上げる。顧客を主語にした「カスタマージャーニー」をいかに構築したか。

(*)本稿は『売上目標を捨てよう』(青嶋 稔、インターナショナル新書) の一部を抜粋・再編集したものです。

【連載:売上目標を捨てよう】
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 営業本位のプロセスでは、顧客の立場にたった提案が難しくなっている。それを示しているのが、リコージャパンの取り組みだ。

 リコージャパンは強い直販力を持ち、複合機をはじめとしたオフィスソリューションを展開してきた。しかしながら、3Dプリンターやテレビ会議システムなど、その扱い商材が広がるに伴い、営業担当者が顧客の総務や情報システムにアプローチする接点だけでは、販売が難しいということに直面した。

青嶋 稔(あおしま・みのる) 株式会社野村総合研究所フェロー。1988年、精密機器メーカー入社後、10年間の米国駐在などを経て2005年より野村総合研究所に参画。2012年同社初のパートナー(コンサルタントの最高位)に就任。2019年同社初のシニアパートナー、2021年4月より同社初のフェローに就任。米国公認会計士、中小企業診断士。近著に『リカーリング・シフト』(日本経済新聞出版)、『価値創造経営』(中央経済社)など。

 “営業依存のプロセスはいらない”とは、営業プロセスのみならず、顧客の立場に立ち、カスタマージャーニーを考え、どうしたらこれまでリーチできていなかった顧客にリーチできるのか、その方法を考えるということだ。どのようにすればより良い顧客体験を創造できるのかを考え、営業プロセスとカスタマージャーニーの考え方を組み合わせ、より幅広い顧客にリーチすることができた成功例として、同社の事例を紹介したい。