
「ものづくり大国」として生産方式に磨きをかけてきた結果、日本が苦手になってしまった「価値の創造」をどう強化していけばよいのか。本連載では、『国産ロケットの父 糸川英夫のイノベーション』の著者であり、故・糸川英夫博士から直に10年以上学んだ田中猪夫氏が、価値創造の仕組みと実践法について余すところなく解説する。
第12回では、スティーブ・ジョブズなどを例に、価値の「創造」と「獲得」を結びつける秘訣について紹介する。
価値創造システムのプロセスを比較
今回からは創造性組織工学(Creative Organized Technology)とトヨタ製品開発システムという価値創造性システムの具体的な方法論の解説に入っていく。創造性組織工学とトヨタ製品開発システムの2つはプロセスは表面的に違うが、本質は似ている。
つまり、比較することで本質を明らかにできれば、多くの業種で応用がしやすくなる。そのため、数回にわたり、価値創造システムのプロセスを比較しながら話を進めることにする。
比較するための物差し
MOT(技術経営:Management of Technology)という考え方をご存じだろうか。1980年代の日本は、アメリカの社会学者エズラ・ボーゲル博士の『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(CCCメディアハウス)が象徴するように技術大国として世界を席巻していた。そこで、アメリカはマサチューセッツ工科大学(MIT)を中心に、次の2つを目的とし、日本に対抗する方法を研究した。
・イノベーション創出(研究開発〈R&D〉資源の最適化)
・技術と経営の融合(技術とビジネス戦略の統合)
当時の日本は製造業の技術力や品質の高さなどが評価されていた。第7回で「プロフェッショナルマネージャー」と「プロダクトマネージャー」の違いを解説したように、システムズエンジニアリング手法のMIL-STD-499Aなどを使い、製品開発をする企業が多かった。
こうした場合のプロダクトマネージャーの役割は、あくまで製品開発のみで、既存プロダクトの改良と品質向上が中心だった。従って、イノベーションを創出し、技術と経営を融合すれば日本に勝てるとアメリカは考えたのだ。