「ものづくり大国」として生産方式に磨きをかけてきた結果、日本が苦手になってしまった「価値の創造」をどう強化していけばよいのか。本連載では、『国産ロケットの父 糸川英夫のイノベーション』の著者であり、故・糸川英夫博士から直に10年以上学んだ田中猪夫氏が、価値創造の仕組みと実践法について余すところなく解説する。
第7回では、「価値の創造主」であるプロフェッショナルマネージャー(PM)に求められる5つの条件を紹介する。
略称形はPMと同じだが中身が違う
創造性組織工学(Creative Organized Technology)では、専門家を焼き鳥の串のように束ね、価値創造をする「価値の創造主」の役割をプロフェッショナルマネージャー(PM)と呼んでいる。同じように「PM」と呼ばれているプロダクトマネージャー、プロジェクトマネージャー、プログラムマネージャー、チーフエンジニア(CE)との違いからその特徴を明らかにしてみよう。
・プロダクトマネージャー
顧客のインサイト(現在は表出されていない、隠れているマスクドニード)を発見し、プロダクトの開発・改良を主導する。主に第6回で解説した5つの商品群のプロダクトイノベーションを対象としたプロダクト開発責任者をプロダクトマネージャーと呼ぶ。
システムズエンジニアリング手法のISO/IEC/IEEE 15288(バブル崩壊前の日本企業でバイブルだったMIL-STD-499Aから発展)を使い、既存プロダクトの開発効率と品質を向上させる企業も多い。
・プロジェクトマネージャー
特定のプロジェクトの計画(範囲、時間、コスト、品質)、実行、完了までを管理する。主にビジネスプロセスイノベーションを対象とする責任者をプロジェクトマネージャーと呼ぶ。
実装マネジメント手法として、プロジェクト管理に重きを置くPMBOK(Project Management Body Of Knowledge)、不確実性に重きを置くCCPM(Critical Chain Project Management)、要求定義に重きを置くBABOK(Business Analysis Body Of Knowledge)などがある。
・プログラムマネージャー
複数の関連するプロジェクトを統括する。それらが戦略的なビジネス目標を達成するような全体の戦略とビジョンを定義し、それを実行するためのガバナンスとプロセスを確立する。各プロジェクトマネージャーと連携し、プロジェクト間のシナジーを最大化し、リソースを最適化する役割をプログラムマネージャーと呼ぶ。
・プロフェッショナルマネージャー
ビジネスプロセスイノベーションやプロダクトマネージャーが対象とする5つの商品群(第6回参照)の顧客だけでなく、地球生命圏なども対象とする。価値創造のための資金調達、開発からマーケティングに至る全てのプロセスに責任を持つ価値の創造主をプロフェッショナルマネージャーと呼ぶ。
・トヨタ自動車のチーフエンジニア(CE)
プロダクトマネージャーの責任範囲である開発に関連する技術分野だけでなく、自動車に限定されるが、企画(マーケティング調査、商品企画、製品企画、販売企画、利益計画など)、開発(工業意匠、設計、試作、評価など)、生産・販売(設備投資、生産管理、販売促進)の全てを主導し、全てに責任を負う価値の創造主をCEと呼ぶ。