- なぜ、企業は「売上目標」にとらわれるのか。計画には目標が必要だが、いまや売上目標が多くの企業で成長を妨げる弊害となっている。
- 売上目標は会社から与えられたもので、組織と従業員の思考能力を奪う。自己満足に陥りやすく、市場環境の変化への対応力も損なう。
- 連載3回目は日立製作所。特定の顧客向けだったソリューション事業から脱却し、「マスカスタマイゼーション」をどのように可能にしたのか。
(*)本稿は『売上目標を捨てよう』(青嶋 稔、インターナショナル新書) の一部を抜粋・再編集したものです。
【連載:売上目標を捨てよう】
◎ソニーグループはなぜ、プレステ事業で「遊んだ回数」を重視するのか?販売目標で見失う事業の本質
◎リコージャパン、受注率を飛躍的に高めた「カスタマージャーニー」はどう作った?
◎日立製作所が進める「マスカスタマイゼーション」、特定顧客向けのソリューション事業から脱却した方法は?
◎サントリーはどうやって安売り競争から抜け出した?小売りと組みAI・データ活用、生活提案型マーケティングへ
日立製作所では2016年より「Lumada」(ルマーダ)というIoT(Internet of Things/様々なモノをインターネットに接続する技術・仕組み)プラットフォーム事業を展開している。これは同社が持つ技術を駆使し、顧客のビジネス上の課題を分析・解決していくソリューション(問題解決)事業だ。
サービスのパターン化で複数企業の類似案件に提供可能に
この事業で日立は、顧客に提供した自社サービスの徹底したパターン化を行い、複数の企業に提供可能な形にして、マスカスタマイゼーションを進めている。ある顧客に提案したソリューションを、一顧客に対する事例では終わらせないということだ。
たとえば同社は、ある製造業に提案し導入された(設備や機械の不具合を察知する)予兆保全システムから、製造業に共通してみられるエッセンスを抽出し、同じ業界の複数の企業へと提供可能なものにしている。
同社では必ず1つの案件に対して「類似のパターンがないか?」と過去の事例の探索をしているという。営業担当者やシステムエンジニアには、常に、「Lumada」で提供される事例を1社の例で終わらせることなく、複数に展開することを教育している。
同社が「Lumada」事業を推し進めた理由の一つに、リーマン・ショック後の09年3月期に計上した連結最終損益7873億円という赤字がある。経営を立て直すため、同社は製品の提供から、顧客のプロセス改革までを担うソリューション事業へとビジネスモデルを大きく変換していったのだ。
かつての日立では、ソリューション事業は特定の顧客向けのものとなってしまい、横展開し規模を拡大することが難しかった。そこからどのようにしてマスカスタマイゼーションを可能にしていったのか、3つのポイントに分けて見ていこう。