AIカメラとPOSデータで、顧客動向と商品棚を常時把握

 さらにもう1つ、サントリーが手掛けた事例を述べたい。

 郊外型大型スーパーなどを運営するトライアルカンパニーという企業があるのだが、その小売店舗の一つであるスーパーセンタートライアル長沼店(千葉県)では、AIカメラを各所に設置し、店舗のデジタル化をしている。

 トライアルカンパニーは20年7月より、サントリーを含む複数の飲料、食品メーカーが参画した共同プロジェクト、REAIL(リアイル)に参加。流通業界でのAI普及を目指した取り組みを行っている。この活動を通じ、AIカメラから取得したデータとID-POSデータを分析するシステム「Suntory-Link」を開発し、顧客別の来店頻度や売場棚の商品充足率を時系列で分析可能にした。

 その結果、「商品の充足率が週内に何度も0%になるなら商品の陳列数を増やす」などのアクションを取れるようになった。カメラでの画像分析により、店頭の商品陳列の検証も行うことができるという。

 サントリーは、このように変革マインドが強く、デジタルの取り組みに対して意欲的で成長力がある流通企業を中心に、重点的に施策展開をしていった。そして、流通企業のトップとの信頼関係を作り、消費者に対する食卓等の生活提案をしていくことで、価格訴求ではない新しい売り方を広めている。

 サントリーの営業スタッフの意識も徐々に変革されており、現在は営業スタッフであるマーチャンダイザー(MD)の育成やデータ分析などの普及に取り組んでいるという。なお、こうしたID-POSなどのデータ分析や、専門性の高い人材育成は、サントリーホールディングスのデジタル本部が伴走しながら支援をしている。これらの活動は、サントリーホールディングス傘下のグループ企業へも展開し、グループ全体での知の共有がなされている。