クーポン配信実験と画像情報解析による効果
同社の具体的な取り組みとして、顧客起点で品揃えの提案を行った九州のディスカウントストアの事例を取り上げたい。ここでは、サントリーのハイボールと唐揚げを組み合わせた実験を行った。
実験では、レジカートに唐揚げを入れた顧客に対して、その場でハイボールを安く買えるクーポンの配信を行った。すると配信をしない場合と比較して、ハイボールを買う人の確率は6倍にまで向上した。顧客の購買タイミングで、相性のよい商品をレコメンドすることにより、大きな効果が上がることが分かったのだ。
また、店舗内のカメラから画像情報を取り、これを解析、顧客の購買行動をデータ化することにより、飲酒量や購買傾向から、顧客をロイヤル、ミドル、ライトユーザーなどに分類している。商品を選んで酒売場を出るまでの時間は、ヘビーユーザーは8秒、ライトユーザーは多数の銘柄から選ぶ傾向があり45秒と、大きく異なる。顧客によって、所要時間も購買行動も大きく異なることが分かった。
また棚割りの方針を変える必要性を感じさせるデータも得ることができた。従来、ABC分析で売上高が上位の商品から売り場に陳列するのだが、顧客軸でデータを見ると、Cランクの商品のなかに、ロイヤルユーザーがよく買うアイテムが含まれていたのだ。商品の売れ行きだけで品揃えを決めると、ロイヤルユーザーにとって買う商品がないことから、いずれお店離れをしてしまう可能性がある。単に売上高のみならず、顧客の購買行動もかけ合わせることで、品揃えを考え、売り場を作ることが必要だろう。
こうした活動を通じて、自社本位の売上高、利益重視に基づいた商品や、ブランドを中心としたプロダクトアウトの考え方だけでは、顧客には通用しないことが分かってきた。顧客の行動を常に意識し、顧客にとっての購買体験を中心に考え、売り場を流通企業とともに創造していく。そのことにより、魅力的な買い物体験を提案していくことが大事であると再認識するようになったのである。