「鎌倉を 生きて出でけん はつがつお」松尾芭蕉
当時の輸送ルートと鮮度が気になる。

「目には青葉  山ほととぎす 初鰹」山口素堂
季語が多い。

「女房を 質に入れても 初鰹」江戸古川柳
比喩が極端。

江戸っ子の初鰹への狂乱振りは驚愕レベル。初物を食べると75日寿命が延びるという言い伝えのほか、「かつお=勝つ男」の名前から縁起物とされ、武士にも好まれていたのだという。11代将軍家斉のころには1本に金4両という最高値がつけられたという説があるほど高額ながら、験のよさや“粋”には命を懸けても惜しくないのが江戸っ子気質だったようだ。

春から初夏にかけ、太平洋岸を北上する初鰹は、脂が少なくさっぱりとした味わい。旬を堪能したいのは現代人も同じく。そこで、先人たちが熱狂した初鰹をよりおいしくする粋でいなせな“七色薬味”の作り方を職人歴42年「鮨処 順 銀座店」の板長、高野仁志さんに習ってきた。

一品料理だけで常時30種ほども用意する同店。オリジナル七色薬味を考案したのは、先代の伊藤料理長だそう。すでに鬼籍に入った彼に敬意を表し料理長の肩書は永久欠番となり、以降は板長を名乗る。

材料の刻み方には熟練の技が必要で一朝一夕に完コピはできない。しかし、この組み合わせの妙さえ知っておけば、鰺のたたきやイワシにも活用できる。

飲食店とは、単に旨いものを提供するだけの場所ではない。技術を磨き、それを土台に惜しみない熱量とアイデアでお客をもてなすエンターテイナー。そんな現代の江戸前鮨職人による“粋”をぜひ感じてほしい。

※包丁を研いでから取り掛かるのがおすすめ。研ぎ方はこちら

初鰹の七色薬味

材料

しょうが…60g(正味)
エシャレット…60g(正味)
みょうが…60g(正味)
ふぐねぎ(2㎜厚さの小口切りにする)…5本
大葉(2~3㎜幅の細切りにする)…3枚
赤たで…一つまみ
かいわれ大根…1/3パック(洗って根元を切り、3等分に切る)
※ふぐねぎは、フグ料理に使われる細いねぎ。あさつきでも可。

鰹…1さく(皮付き、背側を使用)
おろししょうが、醤油…各適量

本来のレシピではかいわれ大根が入って七色薬味ですが、取材時に状態の良いものの入荷がなかったため今回は省いています。

作り方

1. みょうがは縦半分に切り、根元の部分をV字型に落とし、内側の芯の部分を取り除いて形の整った3枚ほどを使用。縦に走る繊維に垂直ではなく、15度ほどの角度をつけてやや斜めに切る。

2. エシャレットを切る。みょうがと同様に縦半分に切り、根元と芯の部分を除いて繊維に対して角度をつけて千切りにする。

3. しょうがは皮を剥いて千切りに、大葉は2㎜幅ほどの細切りにする。 

4. みょうが、エシャレット、しょうが、かいわれ大根を氷水に5分ほどさらし、しっかり水気を切って大葉、赤たでと合わせて均一になるように混ぜる。

鰹の切り方

1. 血合い骨に近い部分は平行に包丁を入れて切り分けておく。

2. 1㎝厚さに鰹を切る。皮に包丁の刃が当たったら、横にスライドさせるようにして皮まで切らないようにする。

薬味活用法と“粋”な盛り付け例

1. 切り方1で外した部分は1㎝厚さのそぎ切りにする。2でカットした部分は、斜めに包丁を入れ半分くらいの一口大にそぎ切りにする。

2. 薬味と1の鰹を交互に重ね、最後に切りたてのふぐねぎを散らす。 

 初鰹をサラダ仕立てにし、しょうが醤油でいただく。

端正な包丁使いで、薬味が立つ!
さらに、盛り付け例も教えてもらった

自宅だとつい平らに盛り付けてしまいがちな刺身だが、立体感と遠近感を意識すればここまで変わる。いずれも皿の奥につまを置き、大葉を立てて鰹を配置している。

切った鰹の大きさはほぼ同じだが、奥から手前に流れるように曲線を描き、一枚一枚スライドさせて盛り付けると遠近感を演出できる。また、つまと薬味はふわりと高さを出すのがポイント。「山」と「川」、皿の上に山水が流れる光景(これが日本料理の美意識!)をイメージしてみよう。

口当たりの繊細さはもちろんだが、職人が丁寧に仕上げたエアリーな薬味は、凛として美しく立つ。

 教えてくれたのは

高野仁志さん

18歳で入社して以来、江戸前鮨職人一筋の熱血漢。現在でも、多数の鮨店を食べ歩いては勉強を重ね、自身が考案するコース構成や季節の一品料理にアイデアを生かす、生粋のエンターテイナー。