文=難波里奈 撮影=平石順一

1972年創業時から変わらない店と珈琲
都内の名だたる喫茶店主たちからよく名前を聞くのが、
7mほどのカウンターが引き立つ店内
カウンター席の反対側はテーブル席、奥は個室のようになっており、違った雰囲気が楽しめる
能勢顯男(のせあきお)さんがカファブンナを始めたのは36歳のとき。誰もが知っている有名な大学を卒業したあと、保険関係の仕事や車のセールスなど、会社員として働いていた時期もあった。もともと珈琲が好きだった能勢さんはいろいろな珈琲店を巡り、当時、虎ノ門にあったビルの中に入っていた「舞鶴」という店に足繫く通っていた。そうしているうちに、そこで使用している豆の会社の人と仲良くなって「店をやってみないか?」と誘われたそう。コクテール堂との出会いである。
珈琲はもちろん、音楽、写真、食器のことなど、たくさんの知識を持つ能勢さんとのおしゃべりは楽しい
能勢さんが好きな20世紀前半のアメリカのポピュラーミュージックを中心に、貴重なCDが揃う
東京生まれ、東京出身の能勢さんの遊び場所は、六本木、赤坂、原宿で、その中のひとつであったこの場所に自分の城を開くことに決めた。今では気おくれしてしまう雰囲気のある土地だが、
珈琲はネルドリップで丁寧に入れられる
今では、美味しい珈琲を飲める店の一つとしてコクテール堂の豆を
ブレンドはラテン(コクのある苦み)、アフリカン(コクのある酸味)、キャメル(ソフトな苦味)の3種類。ストレートコーヒーも豊富
また、神保町のトロワバグや湯島のフレンチ・
カップはモカサイズで提供、左側がデミタス。「実は知らない人が多い」と能勢さん。こちらはオリエント急行のグッズ
ジノリ、ベルナルド、レイノーなど、美しいカップが揃う
御年87歳を超えた能勢さんは、
カウンターにある黒電話。店内に鳴り響くベルの音も懐かしい
開店当初からある天秤ばかりは現役で、珈琲豆5杯分65g分を測る。「これを使えばおもりが1/5で済む」と能勢さん
一方、さまざまなジャンルの物事について自分と同じように詳しい話をできる人がいないことを嘆いていた。毎日数えきれないほどの珈琲を点てる忙しい日々を送りながら、その貪欲なまでの物事への興味はどこから湧いてくるのだろう。こういう人の淹れる珈琲だから、パワーにあふれていて飲みたくなるのかもしれない。
「きちんと美味しい珈琲を淹れられる技と、いろいろな雑談に対応できる知識を備えた人が、銀座あたりで一杯3000円くらいで飲める珈琲店をやってくれないかなあ。そんな人がいたら大切にしているスプーンを売ってもいいなあ」と喫茶文化の共有者を探している様子。心当たりのある方は、一度カウンター席で能勢さんと対話してみてはいかがだろうか。
毎月第一水曜日には“懐かしい映画音楽の会”というイベントを開催(追加料金なし)。すでに150回を超えており、その度に曲名や演奏者、作詞作曲者、映画タイトルを手描きで描いたリストを用意。丁寧な字に能勢さんの音楽へのリスペクトが感じられる

