文=難波里奈 撮影=平石順一
「いつか自分の店を持ちたい」
どちらかといえば煙草の匂いは苦手で、
「いらっしゃい」、ハスキーで心地よい声とさっぱりした笑顔で迎えて下さるのは、高橋こがねさん。ポピンズがあるこの場所は、もともと男性が営む「笹」という名前の喫茶店だった。当時、こがねさんは近くに住んでいて、毎日のように前を通っていてその店の常連に。最初は木造建ての2階で、その後ビルに建て替えられて少し狭くなったが、カウンターはずっとそのままだそう。笹の閉店後、経営者が女性に変わって店名は「ポピンズ」となった。
喫茶店でパートをしながら「いつか自分の店を持ちたい」
初代ポピンズのときは、店内にたくさんのファンシーなランプが飾られていたが、それは少し減らしてこがねさんの好きな塩梅に調節したそう。カウンターにずらりとあるさまざまなカップたちはその頃譲り受けたものと、アンティークを好むこがねさんの兄から贈られたものなどが並んでいる。
「珈琲についてはまったくの素人だった。なんなら今もよく分かっていないのよ(笑)」とこがねさん。独学で学び、「実はそんなに珈琲が好きでもないのよね」と笑う。とはいえ、私はこがねさんの淹れてくれる珈琲がとても好きで、美味しいと思う。
そのコツを尋ねてみると「美味しい豆のおかげ」と、良い豆を売ってくれる人への感謝を告げるのみ。「気になるカップがあったら言ってね。その人ごとに選ぶのもけっこう大変だから(笑)」と、コーヒーカップ好きには嬉しい一言。
こがねさんが自分の城になったポピンズに立つようになってからまもなく30年。長く続けていく秘訣を聞いてみると、「人が好きであること、自宅と職場が近いこと、健康あること、かしらね」と3つの答えが返ってきた。なるほど、いろいろな人がやってくる「喫茶店」
また、毎日のことであるから通勤時間はあまり長くないほうがいい。そして、立っている時間が長く、常に調理等で体を動かす仕事であるし、休むと収入に直結してしまう仕事であるゆえに健康であることは死活問題となってくる。
一人で始めたお店だが、今では定年退職された旦那さんが週末になると店を守る。「ここが大好きなんだよね。夢が叶った場所だから」