「汝の食事を薬とし、汝の薬は食事とせよ」

これは紀元前ギリシャで活躍し、医学の父とも呼ばれるヒポクラテスの言葉とされ、彼は治療の場でにんにくを処方していたという。ピラミッド建設の労働者や古代ローマ時代遠征に赴く兵士にもにんにくが与えられた記録があり、古来より過酷な環境下での滋養強壮剤としての効果効能が期待されていたようだ。

そこで、今回取り上げるのは、その風味をダイレクトに味わえる「ペペロンチーノ」。この名称は略であり、正式には「アーリオ(にんにく)・オーリオ(油)・エ・ペペロンチーノ(唐辛子)」。

貧しくて具材が入れられないことに絶望したのが発祥との説があり、本国イタリアでは“Pasta di disperato”(絶望のパスタ)という散々な別名を持つらしい。

薬効を期待されたり急に絶望されたり、にんにくも波乱万丈だ。

最初から絶望ありきのため、失うものなど何もない。シンプルゆえ失敗したとてそう不味くもならず、反省しないから一向に上達せず、虚無と諦念のパスタとなりがちなひと皿。

成功のカギとなるのは、「乳化」というプロセス。これは、油と水分が混ざり合うことを意味し、乳化したオイルが滑らかにパスタと絡み、奥深い香りをまとった得も言われぬ風味が生まれるのだが、さすがに多少の経験値は必要となる。

そこをショートカットしたいという無茶な相談に果敢に応えてくれたのが、イタリア各地で腕を磨いた銀座「タヴェルナ グスタヴィーノ」のオーナーシェフ、松川良太さん。教えてもらったのは、乳製品を用いて強制的に乳化を進める方法だ。

旨いが勝ち、邪道でいいじゃないか。

知ってしまえば、自信を持って人に振舞いたくなる味わいに。「一度も満足のいくものができた試しがない」という嘆きを一発で解消する“邪道”をぜひ修得してみてほしい。

邪道のペペロンチーノ

材料【2人分】

パスタ…200g
にんにく(芽を除いてみじん切りにする)…20g
オリーブオイル…50g
唐辛子(輪切りにする)…1g
無塩バター(1㎝角に切る)…15g
パルミジャーノレッジャーノチーズ(すりおろす)…15g

黒コショウ、イタリアンパセリ(刻む)…各適量

作り方

1. にんにくを器に入れ、オリーブオイル分量50gのうち10gを取り分けて混ぜ、5分ほど浸しておく。

漬け込んでおくことで、にんにくが焦げにくくなる。多めに作って容器に入れれば、冷蔵庫で1週間ほど保存可能

2. パスタを茹でる。鍋に5ℓの湯を沸かし、25g(分量外)の塩を加えてパスタを入れ、袋の表示通りに茹でる。後でオイルに塩を入れるため、湯の量に対し、塩分濃度は0.5パーセントと少なめにしておく。 

ソースのうま味を吸わせる系の料理ではないので、茹で時間を短縮する必要はない

3. フライパンに1と残りのオリーブオイル40gを入れて火をつけ、弱めの中火で均一に火が入るようフライパンをゆすりながら加熱する。

必ずにんにくとオリーブオイルを入れてから火をつける。こうすれば、にんにくが焦げて苦みが出るのを防げる

4. 油が沸いてふつふつと泡立ち、ややにんにくに焼き色がついてきたらいったん火を止めるか、火から外す。

にんにくをクリスピーに揚げ焼きするイメージ。焦げそうになった場合、濡れ布巾をフライパンの底に当てて回避する

5. 油の温度が下がり、にんにくが揚がっている音が収まるまで待ち、塩と唐辛子を加えて火を止めたまま、よく混ぜる。 

写真は砕いた唐辛子を使用。さやを輪切りにしても可。辛いのが苦手な場合は、種を除く

6. 5を再び弱めの中火にかけ、茹で上がったパスタを入れて手早く混ぜる。湯気の水分とオイルで乳化をさせるため、必ず茹でたてを加える。後で水分が足りなくなった場合のため、茹で汁を少し取っておく。 

7. パスタ全体にオリーブオイルが絡んだら、フライパンを火から外してバターとパルミジャーノレッジャーノチーズを加え、全体を良く馴染ませる。水分が足りず、パスタがくっつく場合は6で取り分けておいたゆで汁を少量ずつ加えて様子を見る。 

バターは溶けていると乳化しにくいため、直前まで冷蔵庫に入れておく
水分と油分が分離していない、乳化の状態

8. 全体を混ぜて器に盛り、仕上げに黒コショウとイタリアンパセリを散らす。

教えてくれたのは

松川良太さん

「タヴェルナ グスタヴィーノ」オーナーシェフ。ピエモンテやロンバルディアなど、イタリア各地で研鑽を積む。㈳日本ソムリエ協会のソムリエ資格も取得し、多くのワイナリーのエージェントやワイナリーツアーなどの通訳もこなすなど、血中イタリア濃度の濃さは日本トップクラス。