「ぼくらの なまえは ぐりと ぐら
このよで いちばん すきなのは
おりょうりすること たべること
ぐり ぐら ぐり ぐら」

福音館書店『ぐりとぐら』

今年、誕生から60年を迎える『ぐりとぐら』。中川李枝子さんと山脇百合子さん姉妹が手掛けた絵本だ。主人公は、野ねずみのぐりとぐら。すがすがしいほどの食いしん坊で、作中には素朴でかわいらしい料理が多数登場する。

なかでも有名なのは、彼らが森の中で見つけた巨大な卵で作るカステラ。使用器具は「おなべ」と書いてあるが、挿絵や料理法を見ると鉄もしくは鋳物フライパンと推測される。

ところが、この鉄のフライパンが意外な難敵。使いこなせず挫折したという経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないだろうか。調理道具は良いものほど手入れの手間を要したり、使用法を限定することも多く、高価なものを買っておけばまずはOKの家電と決定的に異なる。

長く使えるフライパンがほしいけれど、つい安価なタイプを次々に買い替える。そもそも使い勝手に納得していないから地味にストレスが溜まるうえに、お金を捨てているようなもの。このフライパンジプシーを卒業するには、自身のニーズや用途に合ったものを探せばよい。

そこで今回は、専門店「フライングソーサー」の協力で、素材別にフライパンのメリットとデメリットを徹底比較。

美味しい食事は活力になるが、毎日のことなら料理をしんどく感じることがあるのは当たり前。そんなとき、お互いの波長が合い、手にするたびにほんのりうれしい気持ちになれる道具が味方してくれる。

「おりょうりすること たべること」をもっと純粋に楽しむための道具選び、ぜひ参考にしてみてほしい。

※本企画で紹介する商品の価格は2023年10月6日現在のものです。

1.フッ素樹脂加工(テフロン)

一般的な名称である「テフロン加工」とは、もともとアメリカのデュポン社が持つ登録商標だったため、基本的に意味は同じ。食材がくっつかず、洗いやすいことから現在主流となっている。素材をコーティングしている特性上、これがはがれることによって「寿命」がやってくる。傷がつくので金属のヘラなどの使用は適さない。

長持ちさせるためのポイントは、空焚きしないこと。しっかり予熱する場合は、水を1㎝注いで沸かし、これを流して水分をぬぐい、油を注ぐ。また、調理直後の熱い状態で水につけるのもNGだ。

「深型フライパン」(24㎝)19,580円
フライングソーサーのオリジナル商品。有償でフッ素樹脂加工の再コートも可能。納期に6カ月ほどかかるが、料理研究家などプロの依頼も多いという。

2.アルミフライパン

飲食店でよく見かけるタイプ。軽量のため、長時間フライパンを振るプロから「腱鞘炎になりにくい」と好評だ。

パスタ料理では、オイルが乳化した状況が見てわかりやすいため、特に重宝されており、トマトソースのようなタンニンを含む食材の変色を防ぐことができる。熱伝導率がよく、一気に加熱することができる反面、肉料理などは表面が焦げて中が生などということも。特にパスタ料理を極めてみたいという人向け。

「アルミフライパン」(Φ18㎝)4,950円

3.鋳物フライパン

粒子が粗く、表面に細かな凹凸があるため、食材との接着部分が少なく、焦げ付きにくい。また、凹凸の隙間に余分な脂や水分が落ち、熱伝導が良いので炒め物や煮込みにも最適。落とすと欠けや割れが発生する可能性があり、一般的にはかなり重いものが多いのがデメリット。

「鋳物フライパン」(Φ20㎝)8,800円
鋳物最大のネックである重さを従来の約半分にしたフライングソーサーのオリジナル商品。持ち手を短くすることで、このままオーブンに入れることも可能。

4.鉄フライパン

蓄熱性が高く、食材を入れても温度が下がりにくいので、水分を逃しすぎることなく調理ができる。野菜炒めはシャキっと、肉は表面がパリッとこんがりで、中はふっくらジューシーに。

ただし、十分に温めておかないと食材がこびりつきやすい。弱めの中火で火にかけ、1~2滴水を落とした時にパッと円形に転がるくらいが目安。水気を取ってから油を全体に良く馴染ませれば失敗は防げる。

手入れさえすれば一生モノだが、湿気が大敵で錆が出てしまうことも。洗って拭いた後、火にかけて水分を飛ばし、しばらく使わない場合は新聞紙に包んで保管。

使用後に油を塗っておくとよいという説もあるが、油は酸化してしまい、衛生面から見ても実はNGだ。

「ブルーテンパー フライパン」(Φ20㎝)2,750円

初めて鉄フライパンを購入するなら、エンボスタイプもおすすめ。こちらは、表面に凹凸をつけることで食材との接着面積を減らし、こびりつきにくい仕様。油馴染みの良さや鉄ならではの高温調理は可能ながら、より初心者にも使いやすくなっている。

「フライングソーサー オリジナルフライパン」(Φ20㎝)5,115円

5.銅製玉子焼き器

料理上級者でもしっくりくるまで時間がかかる、銅製の玉子焼き器。柔らかく火が入ることから卵焼きがふっくらと焼きあがるのが魅力で、「これでなければ!」というプロの声も多い。

油が馴染み、温度調整に慣れるまでに半年から一年くらい。変色した場合は、酸性のもので磨くとよい。根気よく付き合い、それでも自宅の卵焼きをおいしくしたいという人に。

「銅 玉子焼器」(12×18㎝)14,700円

IH熱源で注意すべきこと

上昇気流が発生しないためファンが汚れず、火事にもなりにくいことから近年多いのがIH熱源。ただし、調理においてガスとはかなり勝手が違う。磁力線によって発熱させるシステムなので、+から-側に磁力が流れ、湯を沸かすとわかるように、左回りに強い熱が入る。奥側の温度が上がりやすいので、均一に火入れするためには、フライパンを時折回転させて強く熱が入る位置を調整するとよい。

IH対応策として、熱伝導効率が良い「三層構造」を謳うフライパンも増えているが、実はほとんどの商品は三層になっているのは底面のみ。側面は熱が伝わりにくい構造なので、あおることで適度に水分を飛ばして炒飯をパラパラに仕上げること、野菜をシャキッと炒めるには不向き。

購入する際は、側面も三層になっているか、構造までチェックしておけば後悔がない。

IHの火の入り方実験図

 購入時にチェックすべき+α

サイズや価格、デザイン等に目が行きがちだが、長く使いたいならチェックしておきたいポイントがほかにもある。写真は、金属の板をプレスして製造するタイプのフライパンだ。型を必要としないため生産コストは抑えられるが、底面と側面部分が完全な曲線になっていない。

食材やソース、タレの類がこの角部分に入って焦げ付いたりする可能性があり、料理の仕上がりに差が出やすい。

プレス方式で作られたフライパンは、底面と側面の部分がなめらかな曲線でなく、やや角度が強く出ている。

 教えてくれたのは

フライングソーサー代表取締役
清水三樹さん

先代から業務用調理道具の販売を受け継いだ経験をもとに、一般消費者のニーズに応え、2001年に倉庫だった場所をショールームに改装、翌年に料理道具店「フライングソーサー」をオープン。店内にガスとIHのキッチンを備え、説明を聞きながら試し、手入れ方法までレクチャーを受けることができる。自身が使ってみて本当におすすめできると選び抜いた商品のみを扱うほか、お客の声を反映したオリジナル商品の開発も行う。メリットだけでなくデメリットもしっかり伝えてくれるので、じっくりと長く付き合える料理道具に出合えるのが魅力。