そんな中、プーチン青年は、ロシアの伝統的格闘技のサンボを通じて柔道に出会ったとされます。サンボの創始者の一人とされるワシリー・オシェプコフは講道館で嘉納治五郎に柔道を学んでいました。体格にあまり恵まれていなかったプーチンは、「柔よく剛を制す」の柔道に希望を見出したのです。

小柄なプーチンに自信を授けた柔道

 現在の柔道の大会は、オリンピックを筆頭に階級別に試合が行われるのが一般的ですが、これは国際大会が多くなったことによって起きた現象です。もともとは相撲や剣道と同様、柔道には階級制がありませんでした。現在の国際関係ではないですが、大きくても小さくても、同じ土俵で戦わざるを得ない状況、これが、武道を考える出発点でもあります。現在、全日本柔道選手権には階級別がなく、無差別級しかないのは、その名残です。

 いうなれば「柔よく剛を制す」は柔道の本質です。体は小さくて力では相手に敵わずとも、相手の力をよく見極めて隙を見つければ、大きい人にでも勝てる。プーチンは、柔道のそんなところに惹かれたと言われています。柔道は自分に自信を与えてくれた、というコメントも残しています。

 そして柔道で、大きな相手の力を利用する方法の一つが「崩し」です。畳の上で両足を踏ん張り相手と組み合いますが、重心のバランスがどちらか一方にかかりすぎたときには大きな隙ができます。そこを上手くつけば小柄な選手でも体格で勝る選手を投げることができる――いわゆる「崩しの理(ことわり)」ですが、この発想もプーチンの体に刻み込まれたものになっているはずです。

柔道の稽古に打ち込む若き日のプーチン氏(撮影日不明。写真:Russian Look/アフロ)

 このような柔道的発想をもとに眺めてみると、現在、プーチンがウクライナ問題をどうとらえているのかがよく見えてきます。