ウクライナに侵攻しても撤退してもプーチン大統領はロシアに大きな爪痕を残すことになる

◆特別公開中◆
(*)本記事は、プレミアム会員向けの特別記事ですが、期間限定で特別公開しています。(この機会に、JBpressのすべての記事をお読みいただける「JBpressプレミアム会員」のご登録をぜひお願いいたします。)

(英エコノミスト誌 2022年2月19日号)

それでもプーチン大統領は勝利を宣言しようとするだろう。

 ほんの一瞬、明るいニュースが出たように思えた。

 2月14日、ロシアの国営テレビに映し出されたウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナ侵攻が目前に迫っているという西側の警告にもかかわらず外交努力を続けるべきだという外務大臣の進言に、一言「よし」と答えたのだ。

 その翌日、ロシア国防省がウクライナとの国境付近に派遣していた約18万人の部隊を一部撤収させると発表した。当初から派遣の理由に挙げていた軍事演習が終了したというのがその理由だった。

 各国の政府当局と市場は小さな安堵のため息をついた。

 悲しいかな、オシント(公開されている情報源からデータを集めて分析する諜報活動)はすぐに、若干数の部隊が動いているものの、それよりずっと多くの部隊が戦闘に備えていることを明らかにした。

 西側諸国の安全保障当局者の多くはプーチン氏の意表を突く率直さで、同氏が嘘をついていると非難し、侵攻が迫っているとの警告を繰り返した。

 たとえ部隊が撤収しようと、この危機はまだ終わらない。

 そして何が起ころうと、戦争になろうとなるまいと、プーチン氏はすでに、ウクライナ侵攻を画策したことによって自国ロシアに害を与えた。

戦術的な得点は稼いだかもしれないが・・・

 この見立てには、西側の識者などから異論が多数出てくるだろう。

 例えば、プーチン氏は一度も発砲せずに世界の注目を一身に浴びることができたとか、ロシアが重要な国であることを改めて証明したなどと指摘する。

 さらに、プーチン氏はウクライナを不安定にし、同国の将来は自分の手中にあることを全員に印象づけた。

 この先、戦争を回避することによって北大西洋条約機構(NATO)から譲歩を引き出せるかもしれない。

 また国内においては自らの政治的手腕を強調し、経済面での困窮やアレクセイ・ナワリヌイ氏をはじめとする野党勢力の弾圧から国民の目をそらすことができた(ちなみに、ナワリヌイ氏は2月半ば、再び法廷に引っ張り出された)――といった具合だ。

 しかし、こうした得点は戦術的なものにすぎない。たとえプーチン氏がこれらを手に入れたとしても、長期的かつ戦略的に見るなら、プーチン氏は勢力を失った。