一つには、世界中の人々の目がプーチン氏に注がれてはいるものの、敵を刺激することになった。
かつてプーチン氏を「人殺し」と形容し、自分が大統領になるのを阻止しようとした同氏を嫌っているに相違ないジョー・バイデン大統領が先頭に立つ西側陣営は、ロシアがクリミアを併合した2014年当時よりも厳しい制裁を科すことでまとまっている。
2019年にフランスの大統領から「脳死状態」だと切り捨てられたNATOは、ロシアと国境を接する側面を守ることに新たな意義を見い出した。
NATOと距離を置くことを常に好んでいたスウェーデンとフィンランドが加盟する可能性すら浮上している。
新しい天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」を浅はかにも支持してきたドイツは、ロシア産のガスはドイツが対処しなければならないお荷物であり、侵攻が起きればこのプロジェクトが頓挫するとの見方を受け入れた。
もしプーチン氏が、脅せば西側はひるむだろうと考えていたのであれば、自分の誤りを正されたことになる。
ロシアが失ったもの
確かにウクライナは苦しんでいる。だが今回の危機は、自分たちの運命は西側とともにあるというウクライナ国民の間に広まった感覚を裏付けることにもなっている。
確かにプーチン氏は、NATOに加盟するつもりはないとの言質をウクライナから取った。だが、加盟する可能性はずっとごくわずかだったのだから、大した価値はない。
それよりも重要なのは、ここ数年無視されてきたウクライナが西側から外交・軍事の面でかつてない支援を受けていることだ。
危機時に築かれたこうした絆は、ロシア軍が撤退したからといって、突然切れたりしない。これもまたプーチン氏の狙いとは正反対の展開だ。
また、プーチン氏がミサイルや軍事演習を含めた欧州の安全保障問題を議論の俎上に載せたという指摘も正しい。だが、そのような議論は全員の利益になる。
紛争の危険を減らしてくれるからだ。ウィン・ウィンの交渉がプーチン氏の勝利としてカウントされるのであれば、もっとやればよい。