(英エコノミスト誌 2022年2月12日号)
目安を求めて歴史に目を向けるべきだが、次の危機はこれまでとは違うと心得よ。
「歴史家にとっては、いずれの出来事も唯一無二だ」
経済学者チャールズ・キンドルバーガーは金融危機の研究論文で、こう記した。だが、「歴史が特殊的であるのに対し、経済学は一般的である」。
景気サイクルが変わろうとしているかどうかを示すパターンを探ることも、経済学の領域に入るからだ。
今日の米国の金融システムは2001年や2008年の暴落前とは全く似ていないように見えるが、最近、ウォール街にはフロス(小さなバブル)と不安のおなじみの兆候が散見される。
これといった材料もないのに相場が乱高下し、価格が急に変動し、多くの投資家がテクノ楽観主義を過剰摂取したかのようなむかつきを覚えている。
2021年に値を飛ばしたウォール街の株価は1月だけで5.3%下落し、1月としては2009年以来の大幅な値下がりを記録した。
ハイテク株や暗号通貨、電気自動車メーカー株といった個人投資家好みの資産が値を崩した。
デジタル・デイトレーダーたちが集まって歓喜の声を上げていた電子掲示板「r/wallstreetbets」も、今ではまるでお通夜のような雰囲気だ。
多額の損失が生じる土壌
1月の株価急落はまさに必要だったもので、おかげで株式市場から投機的な行き過ぎが取り除かれたと考えたくもなる。
だが、米国の刷新された金融システムにはまだリスクが数多く潜んでいる。
資産価格はまだ高値圏にある。
長期的に得られる利益に比べて株価がこれほど割高になったのは、1929年や2001年の大暴落直前以来のことで、リスクの高い債券を所有することで得られる超過リターンはほぼ四半世紀ぶりの低水準にある。
多数のポートフォリオは、遠い将来にしか利益を生まない「デュレーションの長い」資産を大量に積み上げた。そして中央銀行がインフレを抑えようと金利の引き上げに動いている。
米連邦準備理事会(FRB)は年内に計1.25ポイントの利上げを行うと予想されている。ドイツ国債2年物の利回りは2月第1週に0.33ポイント跳ね上がった。2008年以来の大きな上昇幅だ。
見上げるほど高いバリュエーション(株価評価)に金利の上昇という条件が重なれば、たちどころに多額の損失が生じてもおかしくない。